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【1964東京五輪】〜アーカイブズで振り返る神奈川〜
村長日記(34) 敗れた姿は見たくない

連載 | 神奈川新聞 | 2020年10月21日(水) 09:00

 1964年の東京五輪。神奈川には相模湖のカヌー選手村と大磯のヨット選手村が設けられた。神奈川新聞では両村長が日々の出来事をつづった「村長日記」が連載された。五輪イヤーの今年、当時の日付に合わせてこの連載を再び掲載します。海外旅行が一般的でなかった時代、世界各国の五輪選手を迎える緊張や戸惑い、喜びなど臨場感あふれる描写から、1964年と違うもの、変わらないものが見えてきます。

 現代の観点では不適切な表現もありますが、1964年当時の表現、表記をそのまま掲載しています。(※)で適宜編注を入れました。

江の島ヨットハーバーを訪問された皇太子ご夫妻。山縣勝見日本ヨット協会会長(左端)らの案内で、自衛艦「ゆうちどり」からヨット競技を観戦、日本選手団を激励した後、ノルウェーのハラルド皇太子と歓談した=1964年10月19日、藤沢市江の島

忙しい贈り物あっせん

大磯選手村・馬飼野正治

 朝七時、赤、青、黄、総天然色のトレーニングシャツが、江ノ島(※ヨット競技会場)行きバス第一便にむらがっている。これが前夜、相当おそくまで知事招待のレセプションで、ビールをのんでいた選手たちとは思えない。

 三日間休みで、きょうから、第二次の競技が開始されたのである。ノルウェーのハラルド皇太子(※5.5メートル級のノルウェー代表選手)も前回はフィン級第二位(※5.5メートル級の誤り。休み前の4回戦でノルウェー艇は2位に付けた)であったので「今度こそは」と覚悟の色を浮かべて勇躍出発された。

 午後一時、県柔道連盟副会長の斎藤八段、一戸八段など五人が村長を慰問してくれた。この方々の段を合計すると、何と三十五、六段である。この激励では私も強くならざるを得ない。「猪熊(※猪熊功選手)は必ず金メダル」と自信をほのめかしておられた。ほんとうにうれしかった。

 午後二時、県立大磯高校の手芸クラブ員が、顧問の先生に引率されて来村。古くから日本に伝わる芸術「紙人形」百六十点を持参し、各国の選手に贈りたいと申し出た。

 「選手のみなさん、これは大磯高校の手芸のクラブ員が心をこめてつくったものです。みなさんは日本の女性を連れてお国へ帰れませんので、せめてこの日本人形をおつれください」と書いて希望者に持ち帰っていただくことにした。

 午後五時、先般のわが村の美談(※村長日記(29)参照)、スウェーデンのキエル兄弟に贈りものをしたいというご婦人が来村され、五輪ゆかた二枚、赤いはなおのゲタ二足、帯二本、千円のオリンピック記念銀貨一枚を村長室で贈呈した。キエルさんは非常に喜び「このゆかたを着るごとに、生涯美しい思い出としたい」と、おしいただいていた。

 その他ハラルド皇太子にと、「花鳥の刺しゅう」を贈るなど、近いごろの村長室は贈呈品のあっせん所となった。このために相当な時間をさかれてしまうが、私はヨーロッパを旅行したとき、外国の方々から受けたさまざまな親切を身にしみて味わっており、このために国際的な広い愛が芽生え、生涯忘れることのできないものになっているのを思うとき、どんな小さな善意でも受け入れ、親善の一役を買いたいと思っている。

※五輪関係者や神奈川県職員以外の個人名は省略しました


“レース見たくない”弁

相模湖選手村村長・松原五一

 世界は一つ。──こんなことを一カ月以上も選手村に居住して各国の選手と起居をともにしているとつくづく思う。膚(※はだ)の色、ひとみの色、髪の色、同じ人間でありながらどうしてこうも違うものかと思いながら、そんなものを超越してそれぞれ情愛を感じ、もっともっと親近感をもり上げてうちとけたいとねがうようになる。

 こんなとき、ことばの通じないことが全くもどかしい。これでことばの障壁がとり除かれたらどんなに楽しいことであろうと思う。

競技開始を前に相模湖漕艇場で最終調整する選手ら=1964年10月、相模湖町(現在の相模原市緑区)与瀬

 起床。まず洗面所で裸のままの選手と肩を並べて朝の身じたくがはじまる。歯をみがく、ひげをそる、ときには隣り合わせでシャワーを浴びる。みんな同じだ。朝のあいさつも、かわすことばは違っていてもじゅうぶん意思は通じ会う。運動練習の合宿でお互いに言いかわす「オス」とちっとも変わらない。

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