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【1964東京五輪】〜アーカイブズで振り返る神奈川〜
村長日記(30) あとすこしのがんばり

連載 | 神奈川新聞 | 2020年10月17日(土) 09:00

 1964年の東京五輪。神奈川には相模湖のカヌー選手村と大磯のヨット選手村が設けられた。神奈川新聞では両村長が日々の出来事をつづった「村長日記」が連載された。五輪イヤーの今年、当時の日付に合わせてこの連載を再び掲載します。海外旅行が一般的でなかった時代、世界各国の五輪選手を迎える緊張や戸惑い、喜びなど臨場感あふれる描写から、1964年と違うもの、変わらないものが見えてきます。

 現代の観点では不適切な表現もありますが、1964年当時の表現、表記をそのまま掲載しています。(※)で適宜編注を入れました。

5.5メートル級のレースで2位に付けた、ハラルド皇太子(右)、ヨハンセン、ファイエン選手のノルウェー艇。観覧船はノルウェー艇が出場する海域行きの乗船希望が圧倒的、選手紹介で名前が放送されると歓声が上がる、などハラルド皇太子は人気の的だった。背景は七里ケ浜海岸、右奥に稲村ケ崎が見える=10月15日、江の島沖

他国で友に会ったよう

大磯選手村村長・馬飼野正治

 オリンピックびよりが毎日続く。けさはとくに富士が美しいが選手たちは見ようともしないで、いそいそと競技場へでかけていった。

 午前十時三十分県の菅井教育長さんと、菅谷県立博物館(※現在の神奈川県立歴史博物館)長さんが慰問にきてくれた。温顔にえみをたたえて「どうです、元気ですか」といわれた時にはたまらなくうれしかった。県教育委員会から派遣されている山口、大谷両君も教育長みずからの訪問に感激していた。

 村内を一巡して大いに激励されて元気百倍「あと二週間なにがなんでもがんばりぬくぞ」と心に誓った。続いて白戸学校保健課長さんが、内藤県給食会常任理事さんほか二人と慰問してくれた。家を離れて一カ月と四日、他国で友人に会えたような気持ち、ありがたさに心の中で手を合わせた。

 午後三時ごろから選手たちが競技を終了して帰村しはじめた。みんなテレビの前に集まってくる。テレビの映像があんまりよくないのでこれで日本のテレビの評価をされては困ると思いながら百メートルの飯島君(※飯島秀雄選手)や三千障害の横溝君(※横溝三郎選手)の活躍ぶりを見た。横溝君は本県出身であるし、とくに力がはいったが、まことに残念。外国の選手は必ず自分の過去の最高記録か、またそれ以上のものを出す根性をもっている。体力の相違うんぬん、というが私には体力以前のものがあるのではないかと思われる。

 今晩、藤沢の藤ケ岡中学の生徒二人が、ニュージーランドのブラウンさんを訪れカーネーションやキクの花と、テープレコーダーのテープ数本を贈呈した。これは過日展示した図画(※村長日記(20)参照。生徒が描いて村長室に飾られていたもの)をブラウンさんがいただいたので、そのお礼にバッジとレコード、絵本を贈った、そのまた、お礼ということである。ブラウンさんは帰って家の宝にするといっていた。

 午後八時から大磯町長招待のレセプションが開かれた。ハラルド皇太子(※5.5メートル級ノルウェー代表の選手。現在は国王)は他の用事のためちょっと顔だけ出されて帰られたが、タイ国のビラー皇太子(※ドラゴン級タイ代表の選手)ご夫妻は、最後までつきあっておられた。ろくに飲めもしないが、コップにビールをついで外人の間を練り歩き、ことばをかけるのもこれまた村長の仕事である。

 どの選手もジャパニーズ・ベリーナイスであり、この村の生活が美しい思い出として生涯残るといっていた。苦労のしがいがある。「ホタルの光」の曲が流れても帰ろうとしない。十一時ごろまでがんばっていた。これもあすから三日間レースが休みのためであろう。

※五輪関係者や神奈川県職員以外の個人名は省略しました


こけしの贈呈式に拍手

相模湖選手村村長・松原五一

 しっとりした秋気が一面に立ちこめ、ようやくあかね色のベールに包まれはじめた夕空から、色とりどりに美しい各国国旗が静かにおろされて村は夜を迎える。

 墨絵のような山を背負った宿舎のそこここに灯がともされ、通勤の職員が家路につくころになると付近の民家から夕餉(げ)のにおいが漂ってきて、ちょっとした郷愁に似た影が切なく胸をよぎる。ずい分永い間家庭を離れている現在の生活をいまさらのようにふりかえって見て、長いような短いような一月半ではあったが「あとすこしのがんばりだ、負けるな」ともぎ捨てるように思い直して国旗に向かって姿勢を正す。

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