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【1964東京五輪】〜アーカイブズで振り返る神奈川〜
村長日記(29) ほんとうのスポーツマン精神

連載 | 神奈川新聞 | 2020年10月16日(金) 09:00

 1964年の東京五輪。神奈川には相模湖のカヌー選手村と大磯のヨット選手村が設けられた。神奈川新聞では両村長が日々の出来事をつづった「村長日記」が連載された。五輪イヤーの今年、当時の日付に合わせてこの連載を再び掲載します。海外旅行が一般的でなかった時代、世界各国の五輪選手を迎える緊張や戸惑い、喜びなど臨場感あふれる描写から、1964年と違うもの、変わらないものが見えてきます。

 現代の観点では不適切な表現もありますが、1964年当時の表現、表記をそのまま掲載しています。(※)で適宜編注を入れました。

各選手の練習も熱を帯びる相模湖漕艇場=1964年10月、相模湖町(現在の相模原市緑区)

最後の入村式に感慨

相模湖選手村村長・松原五一

 オリンピックのメーンエベントの陸上競技がいよいよ開幕、雨中ながら熱戦が展開されることとなった。われわれ陸上人はいうに及ばず、全国民の期待を背負って飯島選手(※10月13日に100メートルに出場した飯島秀雄選手)登場、見事第一、第二予選パス。次いで世界の強豪を集めて行われた一万メートル決勝では、わが円谷選手(※円谷幸吉選手)の健闘を見、思わず目がしらの熱くなるのを覚えた。

 トラック競技最初の決勝種目、一万メートルといえば戦前ベルリン大会で村社選手(※村社(むらこそ)講平選手)の奮戦が深く銘記されているので円谷選手がどの程度強豪を向こうにまわして戦うか、レース前すでに興奮をおさえ切れなかった。果たせるかなーものすごいスピード、抜きつ抜かれつの全く予断を許さないレースのかけひき、機械のような正確なペース、各選手血みどろの熱戦を展開して、テレビの前にむらがる人々はただ手に汗にぎり、かたずをのんで画面を追っている。

 二十五分はまたたく間に過ぎ、いよいよスパート。最後の最後まで予断を許さなかったこのレースも、アメリカのはかり知れぬ底力を示すミルズの力強いフィニッシュで幕を閉じたがなお興奮のさめやらぬ人々は、一瞬放心の状態におちいってしまったほどだ。そしてわれに返っては、勇躍六位に入賞した円谷選手の力走に対し惜しみない拍手を送っていた。

 よくぞ走った円谷選手。あの目のくらむようなスピードに歯をくいしばっての敢闘は往年の村社選手にも劣らぬ見事な成績であるといえよう。本当によくやった。

 数年前に、私が青森駅伝に監督として本県勢をひきいて参加したとき、福島県選手として活躍、その片リンを見せていた円谷君、よくもここまで成長したものであるといまさらながらその精進ぶりをたたえたい。

 午後、わが村における最後の入村式を行なった。天気男を自称する村長だけあって、午前中の雨空は明るく開いて、晴れ間さえ見えるようになり、この最後の入村式を飾ってもらった。

 チェコスロバキア、デンマーク、ボリビアの三国の国旗を掲げ、歓迎のことばを述べ、自筆の色紙を贈る形通りの式ではあるが、村の重要業務の一つを完了し、やれやれという安心と、いく度か味わったこの感激も、これでもうおしまいというさびしさが入りまじっていささか別離の哀愁に似たものを感じた。

 式のつど、遠路横浜からきていただいた県警音楽隊の演奏を聞くのもこれが最後かと思うと何か名ごり惜しく思われ、余りにも唐突で申し訳なかったが渡辺隊長さんに懇願して一曲演奏していただいた。曲は軍艦マーチ。あの勇壮でしかもわれわれ日本人にとって郷愁にも似たメロディーが深まりゆく秋の湖畔にひびき、しみじみと心の中にしみこんでいった。

 村にとって重要な行事である入村式をより盛大に効果あらしめてくださった県警音楽隊のみなさま、ほんとうにご苦労さまでした。心からお礼を申し上げるしだいです。

 国際少年少女会館(※松原村長が館長を務めた。その後の神奈川県立篠原台青少年の家)の石井館長代理はじめ職員のみなさんから村長がんばれの激励文が届いてたいへんうれしかった。

 今夜の催しもの、郷土芸能の人形芝居、大神楽(かぐら)など四種を公民館で開催、折りからのオリンピック競技テレビ放送に選手はクギづけされて観覧者は少なく、出演のみなさまにはお気の毒をした。これからの催しものについては再考の要あり。人形芝居の浄瑠璃の太夫はなんと、津久井地方事務所の清水所長さん、そのしろうとばなれしたのどにはおどろかされてしまった。


美談はわが村の名誉

大磯選手村村長・馬飼野正治

 冷たい小雨の朝である。私の机の上に置き手紙があった。村長さま、これはカンボジアの選手団から贈られたものです。お受け取りくださいーとあった。さっそくインフォメーションに照会してみたらカンボジアの監督オン・ボク・ヘインさんが選手団団長から贈られた果物のおすそわけということであった。

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