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【1964東京五輪】〜アーカイブズで振り返る神奈川〜
村長日記(26) ナポリよりも江の島

連載 | 神奈川新聞 | 2020年10月13日(火) 09:00

 1964年の東京五輪。神奈川には相模湖のカヌー選手村と大磯のヨット選手村が設けられた。神奈川新聞では両村長が日々の出来事をつづった「村長日記」が連載された。五輪イヤーの今年、当時の日付に合わせてこの連載を再び掲載します。海外旅行が一般的でなかった時代、世界各国の五輪選手を迎える緊張や戸惑い、喜びなど臨場感あふれる描写から、1964年と違うもの、変わらないものが見えてきます。

 現代の観点では不適切な表現もありますが、1964年当時の表現、表記をそのまま掲載しています。(※)で適宜編注を入れました。

ヨット競技会場の江の島にともされた聖火=1964年10月11日、藤沢市江の島

かれんな少年慰問

ハラルド皇太子も敬意

大磯選手村村長・馬飼野正治

 きょうは日曜日。この村には土曜も日曜もない。しかし三十八カ国二百八十五人の選手とすっかりなじみになりほんとうに気楽なきょうこのごろである。けさ八時二十分、茅ケ崎の松浪少年ラッパ隊員九人が青木団長に引率されて選手の激励にきてくれた。ラッパ隊といっても昔の軍隊が使ったラッパである。小学校一年生のかわいらしい女の子もいた。吹きはじめて間もないのですばらしいとはいえないが、選手たちの健闘を祈り、心をこめて吹くさまは涙ぐましい光景であった。バスで送られる選手たちはかれんな親善使節に手を振ってこたえていた。ハラルド皇太子の車もいつもよりゆっくり走り敬意を表していった。

 私は少年たちにこんなあいさつをした。あなたがたの美しい心が選手たちを通じてきっと世界の子どもたちに話されるであろう。あなたがたは世界平和のため国際親善に大きく貢献したと。

 午後、絵はがきの主(※村長日記(21)参照)である藤沢湘洋中学の二年生が友だちとともにわざわざ持参し、自分たちの手で展示していった。コケシ(※同(24)参照)といい千羽ヅル(※同(21)参照)といい、また絵はがきといい日本の少年少女たちの心はほんとうにやさしく美しいと思った。

湘南港の防波堤上にある聖火台へ船で運ばれる聖火。前日の開会式で点火された東京・国立競技場の聖火を分火し、この日夕方、ヘリコプターで藤沢市辻堂の相模工業学園(現在の湘南工科大学)へ。5人のリレーで江の島まで運んだ=1964年10月11日、藤沢市江の島

 午後五時、江ノ島の分火式に村を代表して参列した。久しぶりに知事さん(※内山岩太郎神奈川県知事)の元気な姿に接し自分のおやじに会ったようでたまらなくうれしかった。みんな元気でやっていることを報告したら疲れがいっぺんにふっとんでしまった。

 同五時三十分、国立競技場から分火された聖火が夜空をこがしながら到着した。船で聖火台に運ばれ、内山知事さんの点火宣言でパッと燃え上がった火は海に映え美しかった。イタリアの人にはすまないが、ナポリ、サンタルチアあたりよりも江ノ島のほうがはるかによいと思った。知事さんは流調な英語で並いる選手たちにあいさつされた。さすがに外交官知事だ。

 終わって夜六時からヨットハーバー二階で藤沢市長招待のレセプションがあった。パーティーに見えたハラルド皇太子を知事さんにご紹介したときには足の踏み場もないほどの混雑ぶりであった。この席上藤沢市の人が私を外人選手とまちがえて、ハウ・ドウ・ユー・ドウときた。そしてグッド・イブニング…「ジャパニーズでは今晩は」といともていねいに日本語を教えてくれた。あなたの国は? ときくからジャパンだといったら大笑いした。きっとタイ国かカンボジア生まれと思ったであろう。

 同夜十時、いつもなら相当ににぎやかであるが今夜はひっそりしている。きっとあすの競技に備えているのであろう。

※五輪関係者や神奈川県職員以外の個人名は省略しました


こまるサイン攻め

行楽客どっとくりだす

相模湖選手村村長・松原五一

※開会式の手記を掲載した番外編も併せてご覧ください

 色彩と音楽の織りなす大交響楽。第十八回オリンピック東京大会の開会式の想像を絶する感動の余じんが、まだからだの中にくすぶっていたがそれでいてなにか大きな感激のあとの放心状態にとりつかれているようでもある。しかし全く「すばらしい」という一語につきる平和の祭典の序曲であったといえよう。

 いよいよオリンピック各競技の開始だが、相模湖のおけるカヌー競技は二十日から開かれるので村内にはさほどの緊張感はない。きのうはグラウンドを行進して何万の観衆を熱狂させた名優たちも、きょうはまた何事もなかったようにいつもの村民に戻って、明るい表情にみちた生活を続けている。

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