
国際コンテナ戦略港湾の横浜港。世界各国からさまざまな貨物品がコンテナで輸入されている。一方、覚醒剤や大麻などの密輸は深刻な社会問題となっている。その摘発に重要な役割を担っているのが横浜税関監視部だ。統括監視官の斎藤政彰さん(49)に、水際で密輸を防ぐ現場の思いを聞いた。
横浜税関は2015年、覚醒剤10件172キロ、大麻59件19キロを摘発した。検査の切り札がある。大型X線検査装置だ。正確さと迅速さを両立。物流を阻害しないようコンテナ内にある貨物を取り出さず、パソコンの画面で検査することができる。01年に全国で初めて横浜税関に導入された。
書類検査で必要と判断した貨物について大型X線検査を実施。画像に疑問が生じれば、実際に開いて調べる。見落とすまいと画面を眺める斎藤さんら担当職員の視線は自然と鋭くなる。
斎藤さんは宮城県出身。横浜税関の職員を志したきっかけは、高校生のときに見たパンフレットだった。外国貨物の取り締まりや監視艇の写真に心を奪われた。「税関職員になって密輸を防ぎたいと思った」と振り返る。
10年前、仙台塩釜税関支署上席監視官のとき、検査現場の中心にいた。今年4月には横浜税関監視部統括監視官に就き、20代の若手から60代前半のベテランまで取り締まりの職員を束ねる。
「これまでは自ら密輸を摘発することが一番のやりがいだった。最近は若手や経験の浅い職員が不正薬物などを自力で見つけられるよう、後方支援に力を注いでいる。助言でそれぞれの“アンテナ”を触れさせられると充実感がある」
長年の業務で印象に残ることはという問いには、「いろいろな失敗経験。でもそれは話せません」と苦笑い。「検査業務上の失敗の中に密輸の成功につながるヒントがあるかもしれない。失敗したら原因を分析し、同じことを繰り返さないよう徹底している」と説明する。
不正薬物や銃器などを水際で阻止するためには集中力と体力が必要。朝から夜、週明けから週末へと疲労は蓄積する。午前8時半から午後5時までの勤務中は、45分間の昼休み以外は働き通し。仕事を終えた後や休日は極力、業務のことを考えないようにしているという。
ところが、なかなかそうもいかないようだ。買い物に出掛け、新製品や流行品を見つけると、手にとって材質や重量を確認したり、どのように包装されているかを見てしまう。
「密輸を見抜くためには、日ごろから品物の正常な状態を把握し、認識しておくことが必要。正常を知っていないと異常も分からない」。買い物のはずがついつい検査につながってしまうわけだ。
密輸の手口は次から次へと新たなものが出てくるという。それに対抗するには、“技”の結集が欠かせない。「日ごろから情報を共有するよう、職員のコミュニケーションを重視している。密輸防止は税関の使命。一体となって成し遂げたい」

