東京湾の中ノ瀬で1997年に発生した大型タンカー「ダイヤモンドグレース」(14万7012トン)の原油流出事故をきっかけに、海運大手の日本郵船は安全管理を経営の中枢に位置付け、全ての運航船に安全意識をより浸透させる取り組みを進めている。98年には同社独自の統一安全基準「NAV9000」を導入。20年が経過し、安全・安心を最優先に考える文化が醸成されつつある。
NAV9000は日本郵船が運航する全ての船に適用し、用船する船主や船舶管理会社にも徹底してもらう安全基準。国際条約や国際品質規格(ISO)に対応する国際ルールの順守と、過去の事故の教訓や同社の運航ノウハウなどがチェック項目として盛り込まれている。
時代の変遷による国際ルールの変更をはじめ顧客や官公庁の要請を受けて20年間で16回の改定を重ねた。当初のチェック項目は416だったが、17版となった現在は3倍以上の1563項目になった。現在ではタンカーをはじめ自動車船やコンテナ船など運航する全ての貨物船に徹底を進め、年間約300隻で本船監査、30社以上の船主や船舶管理会社で監査を行っている。
監査員は同社独自で養成し、現在は11人。14日にはインド人監査員プラム・プラカシュさんによる本船監査の様子が横浜港大黒ふ頭に着岸中の自動車船「オシアナスリーダー」で公開された。操舵(そうだ)室ではフィリピン人2等航海士らに座礁しやすい場所などを事前に電子海図に記載しているか、などを質問していた。
日本郵船常務経営委員の小山智之さんは、監査を行う上で重視するのは「運航を担う乗組員や船舶管理会社と対話を深めること」と強調。「安全意識の重要性を理解してもらい、共有を目指すことでコンプライアンスのレベルを超えた実効性の高い対策を行いたい」と説明する。
同社グループは原油流出事故の教訓を風化させないために毎年7月、安全運航の重要性を全社員が再確認するキャンペーン「Remember Naka-no-Se」を展開。「NAV9000安全実務者会議」をはじめ、同社運航船の管理会社や船主も合同で安全対策を議論している。