関内駅に直結するマリナード地下街(横浜市中区)の広場で、手仕事の作品を作家自身が売る「関内駅チカアート市」が、毎月第1土曜日に開かれている。手作りの温かさがあふれ、気に入った作品を探す面白さと、作家と買い物客らの交流を生み出すことが特徴。開催が広く知られることで、「関内地区にも多くの人に来てほしい」という思いもこもった催しだ。
手作りの帽子、古布で作ったがま口、組みひものアクセサリー。最大28の店が出るアート市には多彩なジャンルの作品が並ぶ。出店者が会場をぶらぶらしたり、常連客と談笑したり。楽しげな雰囲気に買い物客が足を止め、会場を巡ることも多い。
手島憲二さん(69)、芳子さん(67)夫妻は常連の出店者だ。憲二さんは水彩で描いた横浜の風景をポストカードにしている。「絵を見ていろいろな話をしてくれる人がいる。その会話を元にして描きに行くこともある」と憲二さん。芳子さんは古い着物や服のリメークをしているが、「お客さんが、作品に使う古い服を持ってきてくれたり、出店している人と話をしたり。売り買いよりも、人との交流が楽しい」とにこやかに話す。
アート市は、雑貨のインターネット販売を手掛ける榊剛史さん(45)=同市磯子区=が2014年9月から不定期で始めた。
以前は中区吉田町のアートイベントに出店していたが、戸外のため、作品が天候や気温の影響を受けてしまう。マリナードとのつながりはなかったが、「ここなら環境に左右されない。広場を使わせてほしい」と頼んだところ、快諾されたという。
当初は集客に苦戦し、取りやめを考えたこともあった。だが、今年3月に「どうせなら毎月開催を試してからやめよう」と思い切って定期開催化したところ、予想以上の集客があった。「作家も『楽しかった』と言ってくれた。そこから少しずつ感触が良くなり、出店希望者も増えてきた」と榊さん。現在は、年内開催分の出店予定はすべて埋まっている。
会場のマリナード地下街も、アート市をにぎわいづくりの一つのきっかけと考えている。
10月に開業40周年を迎えるに当たり、認知度と集客力の向上、魅力の再発信を図っている。開業当時のレトロな雰囲気を生かしつつ目指すのは、40代の女性を中心にしたファミリー層向けの商店街づくり。イメージキャラクター「港マリ子」を作り、その家族を使ったPRや、オリジナルの焼きたてパンの販売などに取り組んできた。
アート市への全面協力もその一環だ。マリナードを運営する横浜中央地下街常務取締役の川端得市さんは、「広場で女性を切り口にした催事を考えていたこともあり、アート市はどんぴしゃの存在だった」と話す。開催日は場内放送を行い、一部の飲食店では、アート市のちらしを提示すると割引が受けられる。地下街入り口の看板にも「アート市」の名前を入れた。
榊さん、川端さんとも、アート市が関内地区の活性化に一役買う存在になることを期待している。横浜というと、横浜・みなとみらい21(MM21)地区に注目が集まりがちだが、「ちょっとディープな横浜の方が好きだという人も多い。関内の面白いコンテンツの一つになれれば」と榊さん。川端さんも、「マリナードは、馬車道と伊勢佐木町をつなぐ結節点。にぎわいの創出が欠かせないし、そのためにも大事に、一緒に育てていきたい催し」と話す。