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〈時代の正体〉「個人の尊厳」軸に共闘を 衆院選向け都内でシンポ

時代の正体 | 神奈川新聞 | 2016年12月22日(木) 02:00

「衆院選挙をどう戦うか」をテーマに行われたシンポジウム=21日、東京都北区の「北とぴあ」
「衆院選挙をどう戦うか」をテーマに行われたシンポジウム=21日、東京都北区の「北とぴあ」

【時代の正体取材班=田崎 基】次期衆院選に向け、「野党共闘」を呼び掛けている市民連合(安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合)は21日、東京都内で「衆院選挙をどう闘うか~立憲政治の再生を」と銘打ったシンポジウムを開催した。基調講演した憲法学者の石川健治東大教授は「現在は政党連合同士の競争になっている。(野党共闘で)多くの人と手をつなぐとき、『個人の尊厳』という理念は共有できるはず」と連帯を呼び掛けた。


憲法学者の石川健治東大教授
憲法学者の石川健治東大教授

 石川教授は主に「立憲政治」の歴史的経緯や、その現代的意味を説明した。
 その中で、「市民連合が掲げている三つのプラットフォームのうち『個人の尊厳』というキーワードはとても重要になってくる」と強調した。

 「単に生かされている、生きていればいいということではない。どんな人であってもその生に尊厳がある。いまその尊厳が傷つけられていまいか。権力の行使によって侵されていまいか。そうした視点が重要」と訴えた。

 「立憲政治」については、大正デモクラシーのころ「猜疑(さいぎ)の政治」と定義付けられた、と解説。「政治家や権力、あるいは民意へ疑いの目を向けることを意味していた。その後、1930年代後半になって、二つの道筋が登場した。それが『信頼の政治』と『信仰の政治』だ。信頼の政治とは、主張はともかく政治家を信頼し預けるということ。これがいま台頭している。安倍政権の独裁を招いていて、ステルス性の権威主義を形づくっている。信仰の政治とは、日本会議の動きに見られるような、ある種、カルト的な政治」と分析した。


憲法学者の石川健治東大教授
憲法学者の石川健治東大教授

 その上で、「この三つどもえの中で、『猜疑の政治』が押されているというのが現状。どれも単独では過半数を奪えないため、例えば『憲法を変えたい』という勢力は、『信仰の政治』と結び付き、また『信頼の政治』に近づき、改憲の原動力としている。こうした状況の中で、もう一度『猜疑の政治』について考えてもらいたい」と語った。

 また「個人の尊厳」については、「自由」「責任」「尊厳」の意味があると説明。特に「責任」については「私たちは過去と将来の国民に責任を負っているということ。いま手にしている権利や自由、もちろん自然環境なども奪われてはいけない。その中には『平和』も含まれるだろう。そのためには選挙に行かなければいけない。『選挙権』について、憲法学の通説は『権利であるとともに公務』であるとされている。極めて勤勉な日本人が、これほど投票に行かない、低い投票率であるというのは『公務』ということが認識されていないからだろう。個人の尊厳における責任というコンセプトは大事にしたい」と話した。


 後半のパネルディスカッションには、経済学者の大沢真理東大教授、政治学者の山口二郎法政大教授、ジャーナリストの山田厚史さん、元シールズの中心メンバーで市民連合の呼び掛け人でもある大学院生の諏訪原健さんが登壇した。


政治学者の山口二郎法政大教授
政治学者の山口二郎法政大教授

 山口教授は、次期衆院選は遅くとも2017年中にあると見通した上で「今年(2016年)にできたこと、できなかったことをきちんと反省する必要がある。ただ、参院選の1人区でできたこともあった。分かったことは『野党共闘』による候補者の一本化には“力”があるということ」と指摘。

 「例えば、一本化できた選挙区では民進党支持層の9割、無党派層も54%が統一候補に入れた。また、野党統一候補が勝った新潟県知事選では民進党支持層の9割、共産党支持層のほぼすべてが統一候補の米山隆一さんに入れた」と出口調査結果などを分析した。

 それを踏まえ、「ここに勝利の方程式がある。つまり、野党がまとまる。保守層の2割程度を獲得する。無党派層の6~7割の支持を得るということができれば、勝てるということ。この構図を次の衆院選でどうつくるか、ということになる」と結論付けた。


「勝利の方程式がある」と話す山口二郎法政大教授
「勝利の方程式がある」と話す山口二郎法政大教授

 また、「これから野党結集していく中で、本当の意味で、働く人のために何をするか、どういう日本をつくっていきたいのか、ということを『連合』にもきちんと考えてもらいたい」と要望。野党共闘のさらなる深化には共通の政策づくりが必要性とし、「個人の尊厳」を具体化する意味で、雇用や社会保障、子育て、教育で政策を打ち出す方針を示した。

 大沢教授は、貧困とアベノミクスの破綻について発言した。


経済学者の大沢真理東大教授
経済学者の大沢真理東大教授

 「安倍政権は『賃金を上げた』というがそんな事実はない。私はこれほどまでに実質賃金を下げた政権を知らない。家計の負担は高まる一方だ。これでは経済が成長するはずがない」

 「政府によって異常な貧困が生まれている。相対的貧困率は経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でも異質にして異常な状態になっている。もはや、国民の尊厳や生存権が侵害されていると言っていい。私は直接的に憲法違反だと思っている。一刻も早くこんな政権を終わらせなくてはいけない」と訴えた。

 ジャーナリストの山田厚史さんはメディアの立場から危機感をあらわにした。


ジャーナリストの山田厚史さん
ジャーナリストの山田厚史さん

 「安倍晋三首相はうそをつく。五輪招致の際に福島の原発について『アンダーコントロール』と言ってみたり、今国会でも『私はTPPに反対と言ったことはない』とか、さらには『強行採決を考えたことはこれまで一度もない』などと言った」

 「だが問題は、こうしたウソに対し、メディアがまったくと言っていいほど対応できていないということだ」

 また、ロシアのプーチン大統領との会談について安倍首相が「北方領土問題で解決の第一歩を踏み出した」と言ったのを、メディアがそのまま報じたことを引き合いに「メディアは、何がどう具体的に『第一歩』なのかを問わなければいけない。全体として言えるのはメディアの力が落ちているということ。これは大きな問題」と指摘した。

 終盤になり山田さんは、同世代が詰めかけた会場に向けてこう呼び掛けた。


「こんな世の中を次の世代に渡していいのだろうかと思っている。もう一旗あげなきゃいけない」と話すジャーナリストの山田厚史さん
「こんな世の中を次の世代に渡していいのだろうかと思っている。もう一旗あげなきゃいけない」と話すジャーナリストの山田厚史さん

 「私は昭和23年生まれの団塊世代。この会場に同じ世代の方々がたくさんいる。僕たちの世代は、大学紛争があり、終わった後、企業戦士をやってきた。そして退職して会社から離れて、いま、自分の生活に戻っている。そこでふと思う。

 こんな世の中をつくるために、俺たちやってきたのか、と。

 あと老い先短い。だけど、みんなそう思っている。最後に一旗揚げたい。こんな世の中を次の世代に渡していいのだろうか、これが僕たちが何年もかけて作ってきた時代だったのか、と考えさせられている。今日、家に帰ったら、自分の友達とそんな話をしてもらいたい」


元シールズの中心メンバーで市民連合の呼び掛け人でもある大学院生の諏訪原健さん
元シールズの中心メンバーで市民連合の呼び掛け人でもある大学院生の諏訪原健さん

 諏訪原さんは自身も学費を奨学金という借り入れてでまかなっていると明かした上で、「若者は一生懸命アルバイトをして、なんとかして大学を卒業して就職したとしても、安心できる生活なんかない。ブラック企業に入ってしまう場合もある。そもそも正社員になれるか分からない。こうした状況をなんとかしなければいけない」と強調した。

 次期衆院選に向けては、「いざ選挙、というときになって連携を模索したり、候補者と話すのではなく、いまから一緒に闘える状況をつくっておくことが重要。私たちが候補者をつくっていくという形にすることが必要になる」と力を込めた。

 
 

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