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育鵬社の公民教科書 目指すゴールは改憲

時代の正体 | 神奈川新聞 | 2020年7月29日(水) 09:48

 横浜、藤沢の市立中学校で使用されている育鵬社の公民教科書の内容を、法律家や教育関係者は危険視する。問題点はどこにあり、生徒たちにどんな影響を与え、何を目指しているのか。県内で登録している弁護士で組織する「自由法曹団神奈川支部」の林裕介弁護士に聞いた。


自由法曹団神奈川支部 林裕介弁護士
自由法曹団神奈川支部 林裕介弁護士

 -育鵬社の公民教科書の問題点は。

 「法律家の立場として、一言で言えば、憲法的な観点からおかしな点がたくさんある、ということだ。憲法の三つの柱である『国民主権』『基本的人権の尊重』『平和主義』について、誤りと言ってよかったり、不十分だったりする点が多く、憲法に対する標準的な理解から外れた記載が多々見受けられる」

 -まず、「国民主権」に関する記述はどうか。

 「歴史の流れを振り返れば、戦前の大日本帝国憲法での天皇主権から、戦争を経て歴史的反省に基づき、日本国憲法で国民主権となった。そこに主権の大転換があったのだが、育鵬社版には一切、書かれていない。天皇主権という単語自体も出てこない。他社の教科書には、天皇主権や主権の転換が記されている。戦前の反省を知るからこそ、国民主権の大切さや重要さが理解できるはずだが」

 -「基本的人権の尊重」に関する記述はどうか。

 「他社の教科書は基本的人権を侵害された歴史、経緯がきちんと書いてある。例えば治安維持法下での表現の自由の侵害や制約、ハンセン病の被害、女性に選挙権がなかったことなどを記し、こうした経験を経て、日本国憲法では制約されない重要な人権として規定された、と明示されている。人権の重要性を学ぶ上で、踏まえるべき流れだ。だが育鵬社版には、日本国憲法以前の経緯がほとんど書かれていない。人権の重要性の基礎的な部分の記載がないことになる」

 -育鵬社版は、人権をどのように捉えているのか。

 「特に育鵬社の姿勢が表れているのが、義務を果たせば人権も保障されるといった趣旨の記述だ。義務を果たさない場合は人権の制約が正当化されるとの誤解を与え、人権の大切さを矮小(わいしょう)化する。男女平等についても、他社は『男性は仕事、女性は家事・育児』という『性的役割分担の固定的な考え方』に触れている。こうした考え方があるために男女平等が進まないのであり、重要な問題だ。だが育鵬社版はまったく触れていない」

 「生存権についても、他社は生活保護の申請の流れなどを具体的に、分かりやすく記載している。最後のセーフティーネットである生活保護は、生存権を具体化した大切な制度だと知ることは非常に重要だ。一方、育鵬社版に申請の流れはなく、欄外に『生活保護受給者のギャンブルの実態』について報じた新聞記事を載せている。子どもたちに、生活保護利用者はギャンブルばかりしている、との好ましくない理解を与えかねず、問題だ。差別的感情も植え付けるかもしれない。生活保護利用世帯の子どもがこの記載を見れば、居たたまれないだろう」

 -「平和主義」に関する記述はどうか。

 「故・芦部信喜東大名誉教授の著書『憲法』は、平和主義について、第2次世界大戦の悲惨な体験を踏まえ、戦争についての深い反省に基づき、日本国憲法では基本原理として採用した、と説明する。『憲法』は法律家であれば誰もが知る標準的な憲法の教科書であり、他社の教科書でも同様の記載だ」

 「だが育鵬社版は、第2次世界大戦で敗れた日本が占領された後、連合国軍が日本に非武装化を強く求め、日本国憲法に反映させることを要求した、とある意味、真逆の説明をしている。これは憲法の標準的理解からは外れた説明だ。こうした教科書で学べば、子どもたちは平和主義を『押し付けられた』と思うだろう。憲法9条を『変えろ』という人たちがいる中で、戦後75年も平和を享受できた礎として9条を『変えない方がいい』という人たちの意見は理解できないことになる」

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