メディアはいま(5)
#metoo #youtoo 内在する「男性優位」
連載・企画 | 神奈川新聞 | 2019年2月26日(火) 19:50
数年前のことだ。テレビ局の記者だった山田香奈さん(仮名)は、取材先から繰り返される言葉に戸惑いを隠せずにいた。
「山田さん、彼氏はいるの」「結婚したほうがいいよ」「結婚して実家に帰ったら? ご両親も喜ぶよ」
警察担当だった山田さんが取材で顔を合わせる男性警察官は1日15人ほど。会う人、会う人が同じようなことを口にした。当初は聞き流していたが、連日連夜耳にすると、次第に違和感を抱いたという。
「なりたかった記者になり、記者の下積みとされる『警察回り』でネタを取ることに注力し、日々、あらゆる努力をしているのに、なぜ、そういう話ばかりをしてくるのか、と」
他社が追い掛けるような特ダネをつかめる記者を重宝する傾向が、とりわけ山田さんが勤めるテレビ局では強かった。そのため、自分がやりたい仕事をするには結果を出すしかなかったという。
取材先と三食を共にし、早朝から深夜まで幹部の元を回り、土日も出勤した。入社数年目にして山田さんはスクープを連発する「敏腕記者」として社内外で知られるようになった。それだけに、取材先から相も変わらず発せられる言葉は「当惑」以外の何ものでもなかった。
それが不快感へと変わったのは、20代後半で留学を決めたときだった。ライフワークである紛争問題に取り組むために専門性を身に付ける必要性を感じ、海外の大学院で修士号を取得しようと考えたのだ。そんな山田さんに、ある警察幹部の男性はこう言い放ったという。
「ふーん、山田さんはもうキャリアを選ぶことにしたんだ。結婚も出産もしないんだね。外国の男性は冷たいよ」
信頼していた取材相手だっただけにショックだった。留学は自身の可能性を広げるための選択であり、結婚や出産をしないと決めたわけでも、恋人を探しに外国に行くわけでもなかった。
「これから夢に向かって踏み出そうとしている人に対し、なぜ、ネガティブなことを言うのか、と思いました」
その「答え」に思い当たったのは、日本を離れ、留学先で生活を始めてからのことだった。
価値観の押し付け
留学先の国では年齢を聞かれることも、結婚や出産の話題を振られることもなかった。個々の生き方を尊重するという文化が確立されていた。
日本ではなぜ、結婚や出産といった話題が「宴席での酒のつまみ」や「話のネタ」のように繰り返されるのか。山田さんはある一つの考えに至ったという。
「根底には『女性は男性より勝っていない』といった潜在意識があるのだと思います。例えば、仕事ができる女性に対して結婚や出産の話題を振るのは、彼らが考える一般価値観のようなものとのずれを指摘することで、女性自身に生き方に疑問を持たせ、その女性が劣勢に立たされて困る姿を見たいのではないかと思います」
留学を告げた際の男性幹部の発言以外にも、思い当たる出来事はあった。
記者時代、ある男性議員から「山田さんのこと、レズビアンなのかと思っていました」と言われた。意図が分からず、別の議員にその話を伝えると、こんな言葉が返ってきたという。