
どんな人でも、長い間、自分にはある顔つきをしながら、他人の前で別の顔つきをし続ければ、ついには、一体どっちが本当の自分の顔なのか当惑してしまうことだろう。米国の作家ホーソーンの「緋(ひ)文字」にそんな趣旨の記述がある▼投票日があさってに迫った参院選に照らせば、改憲を公約に掲げながら街頭で聴衆に訴えようとしない首相の振る舞いに似ていようか。もっともこちらは、当惑するのはもっぱら聴衆の側で、首相にその気配はうかがえない▼国民の関心は景気の先行きや社会保障の在り方に向けられている。それに比べ、外交や安全保障、憲法問題への意識は薄い。暮らしにじかに関わる身近な問題に気持ちが動いてしまうのは世の常である▼だからといって、改憲について首相が意識的に口を閉ざしているようにしか見えないのは腑(ふ)に落ちない。