
SFやミステリーのジャンルの一つに「記憶もの」がある。小松左京に「戦争はなかった」という作品がある。主人公以外、あの戦争はなかったと言う。果たして自分の記憶は正しいのか。怖い短編だ▼少し前にも、藤沢市出身の辻堂ゆめさんが書いた「あなたのいない記憶」というミステリーを面白く読んだ。記憶を書き換えたのは誰か、どうやって書き換えたのか。テーマは「虚偽記憶」である▼記憶が現在の自分を形作っている、と人は信じる。だが、記憶は自身や他者によってたやすくゆがめられる。信じていた記憶が実は偽物だったとしたら…。SFなどで「記憶」がよく扱われるものうなずける▼さてこの方は、そんなにも危ういはずの記憶に基づき、やけにきっぱりと断言していた。稲田朋美防衛相である。国有地売却の問題で揺れる森友学園との関係を国会で問われ、「裁判を行ったこともない」と言い切った▼だが、学園の代理人弁護士として出廷の事実が報じられると一転、「私の記憶が間違っていた」と謝罪。一方で