正しく知ろう 頭頸部がん
PR | 神奈川新聞 | 2022年5月24日(火) 00:00
(提供:メルクバイオファーマ株式会社)
耳や鼻、口の中にもがんができることをご存じでしょうか。顔を中心とした部位のがんを総称して頭頸部(とうけいぶ)がんと呼びます。話す、食べる、聞くなど、日常生活や日々の楽しみに関わる機能が集中する部位であることから、がんが進行すると生きる喜びが損なわれる可能性もあります。頭頸部がんとはどのような病気なのか、専門医である横浜市立大医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科の折舘伸彦主任教授に、症状や原因、予防のための生活習慣などをうかがいました。(※今回、頭頸部がんの中に甲状腺がんは含めていません)
おりだて・のぶひこ 横浜市立大学医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 主任教授。日本耳鼻咽喉科学会専門医。北海道大学大学院医学研究科博士課程修了後、同大学院医学研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野准教授を経て、現職。
生きる楽しさ左右する部位
―頭頸部とはどの部分を指し、どのような種類のがんがあるのでしょうか。
折舘 鎖骨から上の脳と目を除いた部位を指します。がんが発生しやすいのは口の中や喉で、口腔がんや咽頭がん、喉頭がんが多いです。
頭頸部がんは日本人のがん全体の5%で、年間1万5000人~2万人が罹患し、近年罹患数が増加しています(※2)。男女別にみると、女性の約4倍で男性に多くみられます(※3)。
―生存率はどのくらいですか。
折舘 部位によって異なりますが、5年相対生存率(がんと診断された人のうち5年後に生存している人の割合)において、比較的よいのは口腔がんと喉頭がんで、いずれも71%です。一方、予後が悪いのは下咽頭がんで、54%となっています(※4)。
頭頸部がんが進行すると、最初にがんが発生した部位から首(頸部)のリンパ節へ転移します。この転移があると、生命予後が悪くなることがはっきりと分かっています。頭頸部がんの中で最も死亡率が高いのは下咽頭がんですが、発見されたときすでに頸部リンパ節へ転移している場合が多く見られます。
―頭頸部がんは危険ですか。
折舘 5年生存率は、他のがんと同程度です(※5)。ただし呼吸や食事、会話といった日常生活を送る上で非常に重要な機能が集中しているのが頭頸部です。命は落とさずとも、これらの機能障害が起きる可能性があります。おいしく食べられなかったり、コミュニケーションが難しくなったりすれば、生きる楽しさが奪われてしまいます。よりよい機能を保つことが求められるのです。
実際に、頭頸部がんは、初期段階では自覚症状に乏しく、また異常があってもがん特有の症状に乏しいことから、見落とされやすい傾向にあります。他の科の受診で偶然発見されることが多く、初診時では半数以上が進行した状態で見つかっています。気づいた時にはかなり進行していたり、転移が見られたりするケースもあります(※6)。早期発見が何より大切です。
まず耳鼻咽喉科の受診を
―早期発見・早期治療のためには、どのような自覚症状に気を付けたらよいですか。
折舘 死亡率が高い下咽頭がんの場合、飲み込んだときの喉の痛みには要注意です。一方、比較的治りやすい喉頭がんは、最初の症状として声がかれることが多いですが、この段階で受診すれば早期に治療できます。
その他、口腔がんは口内炎のような症状、鼻・副鼻腔がんは常に同じ側の鼻づまりや鼻血といった症状が出ます。これらは普段もよくある症状ですが、なかなか治らなかったり、繰り返したりする場合には一度医師に相談することをお勧めします。
―何科を受診すればいいですか。
折舘 まずはお近くの耳鼻咽喉科がよいでしょう。検査として視診や触診を行い、さらにファイバースコープというカメラを鼻や口から入れて喉の状況を観察します。
万が一、腫瘤や悪性腫瘍が疑われる場合は専門病院を紹介し、生検を行います。そこでがんと確定すれば、画像検査で進行具合や腫瘍の大きさや、頸部リンパ節をはじめとする転移を判定します。
治療は大きく手術と放射線の二つに分かれます。それぞれメリット・デメリットがあり、がんの広がりや進行具合によって患者さんと相談しながら決めます。
予防のため禁煙と節酒
―予防のためにできることはありますか。
折舘 頭頸部がんの原因として指摘されるのが喫煙と飲酒です。なかでも確実に予防効果があるのは禁煙です。がんと分かった後もたばこをやめられない患者さんもいますが、喫煙は治療にも悪影響を与えます。最終的に禁煙外来を勧めることもあります。
お酒を飲み過ぎないことも大切です。すぐに顔が赤くなるなどお酒が弱い方は、量を控えていただきたいです。
その他にも毎年胃カメラの検査を受ける方、また食道がんや胃がんを経験し、定期的に再発チェックを受ける方は、そこで初期の頭頸部がんが発見されることがあります。また、中咽頭がんにおいてはヒトパピローマウイルス(HPV)が発生リスクを高めていることが分かっていることから(※9)、HPVワクチンで予防できる可能性があり、将来的にはワクチンの定期接種などが実施されることを期待しています。
最近は機器の発達によって診断能力が高まっています。何かおかしいと思ったら自己判断せずに、まずはかかりつけ医へ相談するか、お近くの耳鼻咽喉科を受診していただきたいです。
(※2)一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 頭頸部外科情報サイト 頭頸部がんの部位別罹患数年次推移
(※3)一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 頭頸部外科情報サイト 頭頸部がん全体の男女の比率
(※4)一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 頭頸部外科情報サイト 日本人の頭頸部がんの5年相対生存率
(※5)国立がん研究センターがん情報サービス がんの生存率
(※6)一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 頭頸部外科情報サイト 初診時での進行程度
(※7)一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 頭頸部外科情報サイト 頭頸部がんの種類と主な症状
(※8)一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 頭頸部外科情報サイト 頭頸部がんの検査と診断の流れ
(※9)国立がん研究センターがん情報サービス 中咽頭がんについて
(制作:神奈川新聞社デジタルビジネス局)
正しく知ろう 頭頸部がん
横浜市立大医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科の折舘伸彦主任教授 [写真番号:1081237]
出典:一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 頭頸部外科情報サイト(※1) [写真番号:1088010]
オンライン取材に応じる折館教授 [写真番号:1083976]
出典:一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 頭頸部外科情報サイト(※7) [写真番号:1087856]
出典:一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 頭頸部外科情報サイト(※8) [写真番号:1087858]