「子育ての不安を誰かに聞いてほしい」「親との関係で悩んでいるけど、友達や先生には話せない」-。こんな悩みを気軽に相談できる場所がある。児童虐待の未然防止・早期発見に向けた取組として、神奈川県と横浜、川崎、相模原、横須賀の4市が合同で開設する「かながわ子ども家庭110番相談LINE」は、無料通信アプリ「LINE」を通じて無料で相談できる窓口だ。実際にどんな悩みが寄せられるのか。相談員に話を聞いた。
語尾一つ一つに気配り
「文章の最後を『です』とするか、『ですね』とするか。言葉選びには慎重になります」
LINE窓口の開設当初から相談員を務める土井健太さんと大野香織さんは、相談者への細やかな対応を心がける。なるべく早く返事をしつつ、語尾の一つ一つにまで気を配る。相談者との信頼関係を築くためだ。
神奈川県子ども家庭課によると、県内の児童相談所による虐待対応件数は平成24年度から令和3年度までの10年間で、8324件から2万1654件と約3倍に増えており、未然防止や早期発見は喫緊の課題だ。
毎週月曜~土曜、午前9時~午後9時に開設しているLINE窓口には、これまでに延べ約3万人以上が友だち登録しており、子育て中の保護者や小中高校生まで、さまざまな人から相談が寄せられる。
比較的多いのは、未就学児の母親からだ。「イヤイヤ期の子どもにどう対応したらいいか分からない」「今朝なかなか保育園に行ってくれなくて困った」。子育てで行き詰まったり、子どもに不安を感じたりして悩みを吐露する人が多い。最近では父親からの相談も多く、夕方以降は学校を終えた小学生や中高生からの相談が増えるという。
保護につながったケースも
対応する相談員のほとんどは、心理や福祉に関する資格を持つ。土井さんと大野さんはいずれも公認心理師。加えて、それぞれ臨床心理士、精神保健福祉士でもある。相談者の悩みに寄り添いつつ、専門的な立場からアドバイスをしたり、育児に関する情報提供や他の相談窓口を紹介したりもする。
その際、土井さんが気をつけているのは「こちらの考えを押しつけないこと。相談者さんの意見も聞き、話し合いながら進めます」。大野さんは「相談に来てくれてありがとうございます、と必ず伝えます」と感謝の気持ちを忘れない。
相談の中には深刻なケースもある。土井さんは、10代の子から「親から刃物を向けられて怖くて家に帰れない」という相談を受けたことを忘れられない。
身の安全が確保できるまで周囲の状況を確認したり、本人の気持ちを受け止めたりしてLINEのやりとりを3時間ほど続けた。最終的には近くの交番まで誘導し、無事保護にこぎつけた。
「緊急でスマホしか持っていなくても、ここなら助けを求められる。この窓口があってよかったと思いましたね」
困った時の”お守り”
相談を寄せた人が回答した2021年度のアンケートでは、「LINEだと周囲に人がいてもタイムリーに相談できる」「いつでも相談できる場所があることは安心につながる」と、困った時の“お守り”のような存在として頼りにする利用者の姿が浮かぶ。また「文章にすることで自分の気持ちを整理できた」「後でアドバイスを見返して冷静になれる」と、チャット形式ならではの良さを挙げた人もいた。
子どもたちからも「声を出さないで伝えられ、親に気づかれる心配がない」という声が寄せられている。悩みを抱える当事者だけでなく、「子育てで困っている人や、家庭環境が心配な子が周囲にいたらこの窓口を紹介して」と県の担当者は話す。
ここに相談するだけで悩みがすべて解消されるわけではないかもしれない。それでも相談をきっかけに心に余裕が生まれたり、地域の支援機関とつながったりして、少しでも解決の糸口が見え、幸せな親子関係につながれば-。
「一人じゃない。一緒に考えてくれる人がいるよ」。それが、土井さんと大野さんが伝えたいメッセージだ。
(相談員の氏名は仮名です)
(編集・制作=神奈川新聞社デジタルビジネス局)
(提供=神奈川県、横浜市、川崎市、相模原市、横須賀市)
子育てや親子関係の悩み、LINEで気軽に話して
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