伝統文化と持続可能な社会の実現への思いを重ね合わせ、創作活動に励む書家が横浜市内にいる。今年1月、市内で「SDGs書道展」を初開催した粟津紅花さん。地元企業に呼びかけるなどして1年間準備し、展示した著名人らの書は大きな話題を呼んだ。現在は高校生ら若い世代に向けた書道展も企画中。その準備に奔走する粟津さんに活動の源泉などを聞いた。(波多野 寿生)
■手書きで思い表現
-SDGsをテーマにした書道展のきっかけは。
主宰する教室(紅花書道塾)の30周年展に合わせて発案した企画です。
やはり書家である私の子ども2人と実行委員会をつくって定期的に話し合い、若い世代の意見を取り入れながら約1年かけて準備しました。趣旨に賛同してくれた大相撲の尾車浩一親方や県内外の首長、企業経営者といった方々から、SDGsについての思いをしたためた作品を提供していただきました。
現在の環境問題をみると地球規模で「警告」が出されているように感じます。現状を少しでも変えようとするなら、一人一人の理解と取り組みの積み重ねが大切だと思います。
私たちはこれまで、書という伝統文化を国内外に発信し、次世代につなげたいと活動してきました。例えば、新型コロナの収束を願って書道でバトンをつなぐ書道チャレンジを企画したり、五輪を書で応援したり-といった取り組みです。
SDGsについても、世界が抱える多くの課題が「人ごとではない」ということを、書という人の手で表現することで、より多くの人たちに伝えられるはずだと考えました。
■次世代へ引き継ぐ
-第二、第三弾の企画も進行中ですね。
1回目は各界の皆さまにご協力いただきましたが、当初から「継続」を念頭に置いていました。出品された方々の志を、次代を担う子どもたちに引き継いでほしいと思っていたので。
2回目は、主に高校生の作品を紹介する予定です。会場は、(SDGs書道展に)賛同していただいた神奈川銀行の上大岡支店。地元の市立南高校・付属中学校の生徒や留学生、紅花書道塾の生徒が書いた作品を11月10日から、道を行き交う人たちにも鑑賞できる形で展示してもらうことになっています。
また、3回目は、みなとみらい21地区の大型商業施設「マークイズみなとみらい」のギャラリーを提供していただけることになり、来年1月22日から開催の予定です。さらに多くの参加をと、横浜市立高校9校にお声がけするつもりです。
現在、市にぎわいスポーツ文化局の協力を得て取り組んでいますが、今後は市教育委員会の協力もいただきながら準備を進めたい。開催場所の地元小学校からも参加を期待しています。
■「未来の当たり前」
-若者にはどのような作品を期待されていますか。
SDGsがテーマであれば何でも構いません。20文字以内で自由に表現してほしい。
とはいえ、それぞれの思いや志を具体的に言葉にするのは大切なことですが、意外と難しいものです。「自分事」として受け止めながら深く考えないと、筆に託して「字」にできませんから。この体験を通じて、自ら何かを変えるきっかけにしてもらえたらうれしいです。
そして、一人一人の思いやほんの少しの行動が「未来の当たり前」になることを願っています。
あわづ・こうか 愛知県出身。曾祖父、祖父も書を指導しており、幼少時から書に親しむ。大学卒業後、銀行勤務を経て結婚を機に横浜市へ転居。「紅花書道塾」を開設し、現在は同市内を中心に13カ所の教室で指導に当たる。長女紅扇(こうせん)さん、長男紅翔(こうしょう)さんも書家として活動中。国内外での普及にも力を入れ、一緒に書道パフォーマンスなども披露している。
筆に託す未来への思い 書家・粟津紅花さん、高校生ら対象に書道展開催へ
SDGs書道展への抱負を語る粟津さん [写真番号:1195927]
第1回SDGs書道展で寄せられた作品。それぞれの思いが筆に込められている=1月、みなとみらいギャラリー [写真番号:1195928]