
【時代の正体取材班=石橋 学】人種差別・排外主義の代表的な扇動者として知られる瀬戸弘幸氏が川崎市中原区の公的施設で講演会を計画している問題で、市民団体「『ヘイトスピーチを許さない』かわさき市民ネットワーク」は14日、「ヘイトスピーチが行われる可能性が高く、人権被害が生じる」として市議会各会派に、市が対策を講じるよう求める要請書を提出した。瀬戸氏に差別の扇動を行わないよう働き掛けることを求めている。
講演会は、市総合自治会館を会場に「ヘイトスピーチと表現の自由」との題目を掲げる。会館は市の施設で、市が出資する財団法人市市民自治財団が管理運営し、貸し出しを許可した。
要請書では、極右政治団体「日本第一党」最高顧問でもある瀬戸氏を「何度もヘイトスピーチを繰り返してきた確信犯的なヘイトスピーカー」として「無策のままヘイトスピーチが行われ、SNS(会員制交流サイト)上で公開されれば当事者は傷つけられ、何の制約もなく開催できたと宣伝され、今後も繰り返される」と事前抑止の必要性を指摘。ヘイトスピーチ解消法を示し、▽ヘイトスピーチを行わないよう働き掛け、その約束を交わす▽講演会でヘイトスピーチが行われた場合、講演会の中止を求める▽行われたことが確認された場合、今後施設の利用を認めない-ことを求めている。
在せ日外国人の差別・排外主義を唱道してきた瀬戸氏は、都内などで行われるヘイトデモに繰り返し参加。昨年1月31日、在日コリアン集住地区である川崎区桜本を標的に行われた「川崎発!日本浄化デモ」でも、「ゴキブリ朝鮮人は出て行け」「敵をぶち殺せ」と叫ぶデモ隊の一員として在日コリアンの家々の軒先に迫った。このデモによる人権侵害が立法事実となり、ヘイトスピーチは許されないとする解消法が成立した経緯がある。
自民、公明、民進みらい、共産の各会派と無所属の市議に要望書を届けた在日コリアン3世の崔(チェ)江以子(カンイヂャ)さん(43)は「デモでなく集会ならばいいのだろうと巧妙化、悪質化している。事後の対応として貸さないという判断をするためにも、事前に働き掛けをして、ヘイトスピーチはしないという約束を取り付けておく必要がある」と強調する。「約束ができないということはヘイトが目的だ、ということになる。解消法が施行されたいま、約束をしてくださいという働き掛けをするのは、市にも施設にとっても十分可能だと思う」
福田紀彦市長は昨年5月、3度目をうたった「日本浄化デモ」のために市の公園を使うことを認めなかった。ヘイトスピーチによる取り返しのつかない人権侵害の重大さを鑑み「市民の安全と尊厳を守る」と宣言した判断が、その後の事前規制に取り組む出発点となった。崔さんは、現在進められている、全国初となるヘイト目的の公的施設の利用を制限するガイドラインと条例づくりに触れ、「いま野放しでヘイトスピーチが行われれば、市民、行政、議会が一体となって根絶に向かってきた歩みが踏みにじられる。川崎を見習い、後に続こうとしている他の自治体にもブレーキを掛けることになる」と訴えた。
市議会に宛てた要請書は以下の通り。
川崎市議会議員各会派各位
ヘイトスピーチを許さないかわさき市民ネットワーク
瀬戸弘幸主催の時局講演会「ヘイトスピーチと表現の自由」について(要請)
日々、川崎市民の生活権と人権の保障に献身的にご活躍頂きますことに心より敬意を表します。
さて、来る3月25日に標記の瀬戸弘幸氏主催の時局講演会「ヘイトスピーチと表現の自由」が総合自治会館で開催されることが告知されております。私達が調べたところ、瀬戸弘幸氏なる人物は別紙の通り、これまで何度もヘイトスピーチを繰り返してきた確信犯的なヘイトスピーカーといって相違ありません。
総合自治会館は川崎市直轄の施設でなくとも、市の出資団体の(公財)川崎市市民自治財団が管理する公共性の高い施設でヘイトスピーチが行われる蓋然性が極めて高いことには変わりありません。このことにより、ヘイト解消法制の“法益”を侵害すること、当事者の人権被害が生じることは明らかであります。
ヘイトスピーチ解消法の立法事実となった川崎の地で無策のままヘイトスピーチが行われ、SNS上で公開されれば当事者は傷つけられ、何の制約もなく開催できたと宣伝され、今後も繰り返されることになります。人種差別撤廃条約の第2条1項(b)では「各締約国はいかなる個人または団体による人種差別も後援せず、擁護せずまたは支持しないことを約束する」と定められていることをぜひ想起していただければと思います。
昨年6月に市民の安全と尊厳を守るために公園の使用を不許可とした市長英断を後押ししていただいた川崎市議会議員各会派各位の皆さまから、川崎市に今回の施設利用についても次のような毅然とした態度で対応するよう要請していただくことをお願い申し上げます。
1 主催者に対して、ヘイトスピーチ解消法を示し、ヘイトスピーチを行わないよう働きかけ、その約束を交わすこと。
2 講演会のなかで、ヘイトスピーチが行われた場合、講演会の中止を求めること。
3 ヘイトスピーチが行われたことが確認された場合、今後施設使用を認めないこと。
なお、私たち、「ヘイトスピーチを許さないかわさき市民ネットワーク」としては、同日に武蔵小杉駅周辺で、市民向けにガイドラインや仮称・人種差別撤廃条例の早期制定を求める街頭広報活動を行う予定です。