戦時中の学童疎開の経験を描いた日本の子どもたちの絵日記が、海を越えて英国の図書館で展示されている。同窓生の絵日記を集め、記録集を制作してきた前田徳子さん(82)=川崎市中原区=と美川季子さん(81)=山梨県=は「悲願だった海外展示がかなってうれしい。戦争の実態を知ってもらい、平和を願う心が世界中に伝われば」と活動の広がりを喜んでいる。
「今日は全校運動会があった。敵がもしも私達の疎開している富山へ上陸して来たら、私達がやっつける訓練だ」「手榴(しゅりゅう)弾の投げ方をお習いした。ボールを敵の頭だと思って、小さいマリを投げるのだ」
疎開中の日々を当時の児童がつづった絵日記が展示されているのは、英国の由緒あるマンチェスター中央図書館。2月1日から3月末までの開催で、英訳を添えた絵日記約50枚が並ぶ。このうち16枚が、2人が制作した記録集から提供されたもの。終戦直前に出征する教員を見送る様子なども描かれている。
2人は東京女子高等師範学校付属国民学校(現・お茶の水女子大学付属小学校)の同級生。1944年8月から現在の東京都東村山市に疎開し、翌45年4月から富山県に移った。
疎開経験を後世に伝えようと同窓生に声を掛け、3千枚の日記などを収集。89年に記録集として国会図書館や母校に寄贈し、DVDも制作した。96年ごろには海外展示の話が持ち上がったが、資金不足で断念していた。
今回の展示は、日本の子どもを研究しているマンチェスター大学の准教授が記録集の存在を知り、関心を持ったことがきっかけで企画された。連日、若者らが熱心に見入っているという。
渡英して会場を訪れた美川さんは「来場者から『疎開で親子関係が悪くならないのか』といったことも尋ねられた。英国の疎開とは少し違うようで、関心を持ってもらえた」と喜ぶ。前田さんも「当時は家族と会いたくても、弱音を吐かないよう我慢し、絵日記にも書けなかった。親子が引き離され、食べ物もなかった生活を知ることで、戦争とは何かを考えてもらえるはず」と期待を込める。
戦後70年の節目だった2015年8月には、新たに見つかった絵日記を追加し、第2弾として記録集を編さん。国会図書館に寄贈した。高齢になり、活動はそこで終えたつもりだったが、思わぬ形で海外展示が実現した。「海外の人に見てもらえてありがたい。戦争をなくすため、私たちにできることをやってきたが、これで活動の締めくくりにしたい」と語る2人の表情は感慨深げだ。