長期にわたる精神鑑定で、完全な刑事責任能力が問えると判断された植松聖被告(27)。障害者ら46人を殺傷した凶行であっても、「彼の中では筋が通ってる」。幼なじみの証言からは、身勝手な差別思想の一端がのぞく一方、善悪に対する被告なりの冷静な判断も浮かび上がる。戦後最悪とされる事件は、26日で発生から7カ月。舞台が移る公開の法廷で、心の闇は語られるのか-。
「かわいい子とご飯食べに行くから服を貸してくれない?」
やまゆり園を襲撃する数時間前の昨年7月25日夜。植松被告は地元の友人から借りた服を着て、大学時代の知人女性と都内の高級焼き肉店を訪れていた。食事の前には数カ所のホームセンターでハンマーなどを購入。女性と別れて都内のホテルに滞在後、相模原へ戻ったとされる。
幼なじみの男性(27)は、事件数日前に被告と交わした言葉も覚えている。地元の男友達数人で開いた飲み会。被告から漫画本の購入を勧められ、別の単行本を希望すると「それは、まだ読むから」と返答された。別の日には事件後の8月1日に開催された相模湖花火大会チケットの購入場所も聞いていた。
あの時、被告の言動に、冷静さや計画性はあったのか-。鑑定結果は善悪を判断できる状態で、完全責任能力を問えると判断。自分を特別な存在と思い込むなどの特徴がある「自己愛性パーソナリティー障害」とも指摘した。
男性が振り返る。「まさか数日後に、こんな事件を起こすなんて思わなかった」。それまで繰り返していた「障害者を殺したい」といった言葉を口にすることもなく、「落ち着いてくれたんだな」と感じていた。
しかし、事件は起きた。昨年2月、衆院議長公邸に持参した殺害予告の手紙に記していた独善的な思想は消えてはいなかった。
〈障害者は不幸を作ることしかできません。今こそ革命を行い、全人類のために必要不可欠な決断をする時だと考えます〉
一般感覚では理解できない、耳を疑うような数々の言葉。何度も説得を重ねてきた男性は、やがて確信した。「さと君(植松被告)のなかでは、正しいことだと本気で思っている」
起訴された今、友達として望むのは犯した罪の大きさを理解すること。理解すればその重大さに心がつぶれてしまうかもしれないが、絶対に向き合わなければならない。
「さと君の勝手な使命感で奪った19人の命は、二度と取り戻せない。せめて間違ったことをしたと自覚し、心から謝ってほしい」