
著名人による覚醒剤所持事件などが相次ぎ、あらためて注目が集まる薬物。人はなぜ、危険なものだと分かっていながら手を出すのか。県立精神医療センター(横浜市港南区)の専門医療部長・小林桜児さん(46)は、従来の捉え方では説明がつかないと指摘。薬物依存症者の治療においては、「本人にとってなぜ、薬物が必要だったか」を考える視点が重要だと訴える。
1月28日、薬物依存症者を抱える家族の会・横浜ひまわり家族会が開いたオープンセミナー。登壇した小林さんは、来場者に問い掛けた。「一度でも薬物を使うと、やめられない脳に変わってしまうのでしょうか」
従来、依存症とは、依存症になりやすい遺伝子に、家庭などの環境要因が加わり、アルコールや薬物、ギャンブルなどから繰り返し快感を得るうちに、やめられない脳に変わると説明されてきた。
小林さんの問い掛けは続く。「それならなぜ、脳の病気なのに、自助グループの集まりだけで治ることがあるのでしょうか」
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会場で示された数々のデータのうち興味深いのは、小林さんが県内の中学2~3年生440人に実施したアンケート(2010~11年)の結果だ。「人に迷惑を掛けないなら薬物を使用しても良い」と回答した22人を細かく見ていくと「家族と話すのが好きではない」「近所の警官も自分のことなんか守ってくれない」「クラスの他の人たちも心の底から仲間だと信用できない」「学校で勉強に自信が持てない」と感じるなど共通の特徴があった。
薬物に対する抵抗感の薄さはつまり、孤立と無力感のサインだと小林さんは推察する。「どうせ誰も助けてくれないなら、薬物に助けてもらったっていい」。生きづらさを感じる子どもたちの心の内が、垣間見える。
注目すべきこんなデータもある。小児期