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軍学共同考
時代の正体〈441〉軍事研究に踏み出すな 宇宙物理学者 池内了さん

社会 | 神奈川新聞 | 2017年2月9日(木) 17:34

(いけうち・さとる) 宇宙物理学者。名古屋大名誉教授。1944年生まれ。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。名古屋大理学研究科教授などを経て現職。著書に「宇宙進化の構図」(大月書店)「宇宙からみた自然」(新日本出版社)ほか。「お父さんが話してくれた宇宙の歴史」(岩波書店)で産経児童出版文化賞JR賞、日本科学読物賞、「科学の考え方・学び方」(岩波ジュニア新書)で講談社科学出版賞受賞。
(いけうち・さとる) 宇宙物理学者。名古屋大名誉教授。1944年生まれ。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。名古屋大理学研究科教授などを経て現職。著書に「宇宙進化の構図」(大月書店)「宇宙からみた自然」(新日本出版社)ほか。「お父さんが話してくれた宇宙の歴史」(岩波書店)で産経児童出版文化賞JR賞、日本科学読物賞、「科学の考え方・学び方」(岩波ジュニア新書)で講談社科学出版賞受賞。

【時代の正体取材班=田崎 基】大学での軍事研究が政府によって主導されようとしている。政府は新年度予算案に、軍事技術に転用可能な基礎研究を助成する防衛省の「安全保障技術研究推進制度」として前年度比18倍となる約110億円を計上、今国会に提出した。危機感を抱く反骨の大学人らは警鐘を鳴らす。宇宙物理学者の池内了名古屋大名誉教授は、過去の大戦で研究者が果たした役割を禍根として胸に刻む。「踏み出してはならない」


 これまでもさまざまな形で軍事研究が大学や研究機関の中に入り込んでいたのは事実だ。しかし今回予算額を前年度比18倍も積み増した「安全保障技術研究推進制度」は、防衛省が公然と研究資金を大学や研究機関に出していくシステムが初めて本格的に始動することを意味する。

 防衛省は「直接の軍事研究ではない」と強調している。あくまで防衛装備品開発の「基礎研究」であるとの位置付けだ。

 基礎研究は、防衛技術にも民生技術にも使う「デュアルユース」だと説明している。これは一つの基礎研究を二重に活用できるため大きな利得があるという理屈だが、果たしてうのみにしていいか。

 私たちが問題にしているのは軍学共同、つまり「スピンオン」(民生技術の軍事利用)だ。もともとは民生利用のための研究を軍事研究に転化することがよいことなのかという問題。これはよく考えれば、デュアル(二重)ではない。軍からの金で研究することで本来の民生研究が行えなくなる。軍事機密に当たる場合には研究成果の公表さえ困難になるだろう。

 言うまでもなく、逆のケース、つまり軍事研究の成果が民生技術として使われる場合はいくつもある。インターネットも衛星利用測位システム(GPS)もそうだ。だがそれらは言ってみれば「スピンオフ」(軍事技術の民生利用)。これはわれわれの手が及ぶところではない。

 「二重に利用できて効率的だ」という発想で両者を対等に考えてはいけない。全く別物であってその影響も全く異なる。

 結局は一方的に軍が民生研究を横取りしようとしている、というのが適切な見方だ。


民生技術の研究が軍事に転用されていくことの危険性を指摘する宇宙物理学者で名古屋大名誉教授の池内了さん(右)=1月14日午後、横浜市港北区の慶応大日吉キャンパス
民生技術の研究が軍事に転用されていくことの危険性を指摘する宇宙物理学者で名古屋大名誉教授の池内了さん(右)=1月14日午後、横浜市港北区の慶応大日吉キャンパス

常に干渉、監視


 実際の進め方は非常に手が込んでいる。まず防衛省からテーマが出される。2016年は20テーマだった。「メタマテリアル」「レーザー光線」などと列挙される。

 例えばメタマテリアルとは何か。これはステルス戦闘機の翼や胴体に塗る物質のこと。その物質に電波を当てると、乱反射したり吸収したりする。これが隠密飛行機になる。

 研究者がテーマを選び応募し採択される。だが研究の受託者は「機関」だという点に注意が必要だ。
 
例えば慶応大理工学部の教授が応募した場合、慶応大が受託することになる。事は教授や理工学部だけではなく大学全体がこの軍学共同研究を引き受けるということになる。
 
さらに防衛省所属のプログラムオフィサー(PO)が研究の進捗(しんちょく)状況をチェックするという点も特殊だ。POは予算の執行状況を確認する。成果の公開について相談しなければならない。POが常に研究者のそばで干渉、監視する状況になる可能性が高い。

 通常の共同技術研究ではないことを十分認識しなければいけない。

仕組まれた18倍


 15年度の初予算は3億円だった。防衛省は当時概算要求で20億円を要望したが、財務省が3億円に削った。このとき応募総数は109件。採択は9件で競争倍率は実に10倍を超えた。16年度は6億円が付いた。

 問題は17年度。概算要求の約110億円がそのまま丸ごと認められた。執行されれば、数十億円規模で5年間継続の助成となるだろう。これだけの大規模予算となると、もはや一研究グループでは進められない。産業界との結びつきが当然強くなる。

 これは「軍産学複合体」の第一歩ではないか、とも考えている。

 当時、財務省がこんな大きな予算を付けるとは思っていなかった。順当に考えれば10億円程度がいいところだろう。だが振り返れば、この18倍も仕組まれていたことがよく分かる。

 概算要求に先立つ16年5月、自民党の国防部会が予算を100億円増やすよう要望書を作った。そして6月、安倍晋三首相に直訴した。首相は8月、参院選を終え内閣を改造した。この時、自民党の国防部会長だった大塚拓衆院議員を財務副大臣に任命した。つまり概算要求も財務省の了承も仕組まれた演出にすぎなかった。

「自衛論」の泥沼



 こうした政治が行われている状況に、大学や研究者はどう対峙(たいじ)すべきか。

 新潟大では15年10月に行動規範として「軍事への寄与を目的とする研究を行わない」という文書を新たに作った。関西大は16年12月に「安全保障技術研究推進制度」に対して、学内の研究者が申請することを禁止し、他大学の申請に共同研究者として名を連ねることも認めず、また、軍事を所管する国内外の政府機関の研究や民間企業の軍事目的の研究にも協力しない、という規範を新たに立てた。非常に厳格ですっきりしている。


宇宙物理学者の池内了名古屋大名誉教授
宇宙物理学者の池内了名古屋大名誉教授

 琉球大や広島大、東北大など複数の大学が

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