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ヘイトスピーチ考 師岡康子弁護士
時代の正体〈376〉求められる率先垂範 条例はなぜ必要か(下)

社会 | 神奈川新聞 | 2016年8月13日(土) 11:06

川崎市役所前を練り歩くヘイトデモの参加者=2013年10月12日
川崎市役所前を練り歩くヘイトデモの参加者=2013年10月12日

 人種差別全体を禁止する条例が求められていると説く師岡康子弁護士は条例に盛り込むべき施策や留意点を説明した。ヘイトスピーチ対策を審議する川崎市人権施策推進協議会の専門部会で強調したのは、市民の人権を守るべき自治体の責務、その率先垂範だ。 

 「条例に盛り込むか否かは案をつくりながら検討すればよいが」と前置きし、師岡弁護士はヘイトスピーチ解消法の施行を受けて自治体に求められる施策を例示した。

 ●担当部署の設置
 ●首長、地方議会議員の人種差別行為の禁止
 ●差別禁止条項
 ●禁止に違反した場合の制裁
 ●公共施設の利用制限
 ●定期的な実態調査
 ●被害者の意見聴取の制度的保障
 ●被害者への心身のケア
 ●学校教育での差別撤廃教育
 ●マイノリティーのアイデンティティー尊重施策
 ●多民族、多文化交流
 ●公務員に対する人種差別撤廃教育
 ●公務員のレイシャルハラスメント防止規定
 ●インターネット対策
 ●差別に関する相談、救済制度の整備
 ●第三者機関の設置
 師岡弁護士は言う。

 「ぜひ検討してもらいたいのが、市長や市議の人種差別行為の禁止。差別の禁止を市民に働き掛ける以上、より重い責任がある。倫理規定ということになるかもしれないが、公人自らが差別をしないという姿勢を明確にすべきだ」

 人種差別撤廃条約第4条cでは「国又は地方の公の当局又は機関が人種差別を助長し又は扇動することを認めないこと」と定め、条約の解釈基準を示した国連人種差別撤廃委員会の一般的勧告35では「公の当局または機関に関する第4条cのもとにおいて、そのような当局または機関から発せられる人種主義的表現、特に上級の公人によるものとされる発言を、委員会は特に懸念すべきものと判断する」とし、懲戒的な措置などを含みうるとしている。

 公人による差別は扇動効果と被害者への打撃が大きいためで、公務員に対する人種差別撤廃教育が必要としているのも同じ理由。「民族差別、国籍差別に基づく嫌がらせであるレイシャルハラスメント行為を防止する規定をセクシュアルハラスメント防止規定を参考にまず役所の中で設けてもらいたい」

 地方公共団体の責務も定めた解消法は、ヘイトスピーチが頻発している自治体については衆参両院の付帯決議で「解消に向けた施策を着実に実施すること」とする。師岡弁護士は「PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの被害者の心身のケアも市民と向き合っている自治体だからできるし、必要なことだ」と説く。

 解消法の条文上、ヘイトスピーチから保護される対象が在日外国人のうちの「適法に居住するもの」に限定されているように読める問題についても言及し、「非正規滞在者へのヘイトスピーチは許されるとの趣旨ではない。国会審議でも与党の発議者もそのように何度も強調し、衆参両院の付帯決議にも明記されている」。

 参院法務委員会の「ヘイトスピーチの解消に関する決議」にもこうある。

 〈全国で今も続くヘイトスピーチは、いわゆる在日コリアンだけでなく、難民申請者、オーバーステイ、アイヌ民族に対するものなど多岐にわたっている。私たちは、あらゆる人間の尊厳が踏みにじられることを決して許すことはできない〉
 師岡弁護士は条例をつくる際は適法居住要件を外す必要があると指摘する。

 「入国管理と差別の問題は区別すべきもの。日本弁護士連合会も『適法に居住するもの』との文言は人種差別撤廃条約に違反し、無効だとして修正を求める声明を出している。自治体がつくる条例にこの要件を入れ込めば、違反に違反を重ねることになってしまう」


 インターネット対策にも急ぎ取り組むべきだと呼び掛けた。ネット上では「在日コリアンは生活保護受給で優遇されている」といったデマが放置されており、「市のホームページで『在日特権』はうそだと明記してほしい。公的機関がデマを否定するのは教育上、啓発上の効果が大きい。国と同様、啓発活動は解消法が自治体に求めていることでもある」。付帯決議でもインターネット対策に取り組むことがうたわれている。

 解消法を根拠に一歩踏み込んだ対応として師岡弁護士が挙げるのが、差別書き込みの削除要請だ。

 「特定の人に向けたものであればこれまでも侮辱罪や民法上の不法行為にあたる可能性があったが、〇〇人などの集団に対するヘイトスピーチは条約違反であっても法律上の根拠がなく、ネット上でも野放しだった。解消法ができたことにより特定の人に向けられた差別的表現も解消法違反といえるようになった」

 先進事例として紹介したのが広島県福山市。

同市によると、人権推進課の職員2人が1日延べ1時間ほどインターネット掲示板を点検し、差別書き込みがあれば掲示板の管理人に削除を求めている。市内の被差別部落の地名をさらす記述が目立ち始めた2008年から始め、15年度は49件の削除要請を行い、うち7割が削除されたという。



 担当者は「街中の差別落書きであれば行政として消すなどの対応をとる。ネット上の書き込みが放置されていいはずがない」と言い切る。取り組みを広報するようになった12年以降、市民からも情報や相談が寄せられるという。「表現の自由を行政自らが侵害するのかという意見も寄せられるが、人権が守られてこその自由だと説明している。こうした意見自体、人権尊重の意識がいかに根付いていないかの表れ。削除要請という取り組みを知ってもらうこと自体が啓発の一つになると考える」

 師岡弁護士はここでも強調した。

 「行政の削除要請は一般市民がやるより効果が大きいだけでなく、被害当事者の負担が軽くなる。個人でプロバイダーに対し、どのような書き込みがなされ、どのような被害を受けたのかを説明し、削除要請するのは大変な苦痛とストレスが伴う。自治体が動く意義はやはり大きい」

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