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〈時代の正体〉「大規模」に再び異論 やまゆり園再建問題

社会 | 神奈川新聞 | 2017年2月4日(土) 14:02

津久井やまゆり園再建構想について話し合う部会を設置した県障害者施策審議会=3日、県庁
津久井やまゆり園再建構想について話し合う部会を設置した県障害者施策審議会=3日、県庁

 【時代の正体取材班=成田 洋樹】県障害者施策審議会は3日、大量殺傷事件があった相模原市緑区の障害者施設「津久井やまゆり園」の再建構想について話し合う部会を設置した。1月の公聴会に続いてこの日の審議でも、大規模施設再建への異論が相次いだ。

 部会は施設の規模や入所者の意向確認方法などについて5月をめどに意見をまとめる予定。審議会委員の「5月まででは期間が短すぎる」との指摘に対し、県は「いつ結論を出すかは部会に委ねたい」として5月にこだわらずに議論の推移を見守る姿勢を示した。

 部会は、公聴会で大規模施設再建に異論が続出したことを受けて設置。知的障害者をはじめ当事者家族や施設関係者、福祉が専門の大学教員ら8人で構成し、同審議会長の堀江まゆみ・白梅学園大学教授(障害児者発達心理学)が座長に就いた。

 この日の審議では、県聴覚障害者協会の河原雅浩事務局長が「施設よりも、地域で生活することが世界の潮流」として、地域生活への移行を進めて障害者と健常者が地域で出会う機会をつくることが大切と強調。県視覚障害者福祉協会の鈴木孝幸理事長は「入所者の意向確認は時間をかけて丁寧にやらなくてはならない。再建する施設の規模を小さくして、地域で暮らせるようにすべきだ」と訴えた。

 県のスケジュール案などによると、部会は5月までに月2回ペースで開き、6月以降に構想案を公表。障害者団体などが対象の説明会を経て、夏頃の策定を目指している。

 座長以外の部会委員は次の通り(敬称略)。

 知的障害者の当事者グループ「県本人の会『希望』副会長」 冨田祐▽県心身障害児者父母の会連盟幹事 野口富美子▽県知的障害福祉協会顧問 安藤浩己▽県社会福祉協議会福祉サービス推進部長 伊部智隆▽東海大教授(ソーシャルワーク、医療福祉) 堀越由紀子▽神奈川工科大教授(社会福祉、リハビリ) 小川喜道▽県立保健福祉大准教授(障害者福祉) 在原理恵

審議会の主な発言

「いちばん大事なのは本人の意向」





県精神保健福祉家族会連合会「NPO法人じんかれん」理事長の堤年春さん
 やまゆり園入所者を、横浜のグループホームなどで受け入れようという動きがある。一方で、家族会は事件前の落ち着いた生活に戻りたいという意向が強い。入所施設の方が安心だとして建て替えを望んでいる。

 なぜか。地域移行した場合、街中の人が知的障害者を理解して受け入れてくれるのかと考えているからだ。家族会の中には「建て替えに反対している人は、わたしたちと話し合ってほしい」と言っている人がいる。当事者の親の意向をくむことも必要だ。

 今後、横浜で暮らすようになる人もいれば、やまゆり園に残りたいという人もいると思うので、現地での再建は必要ではないか。

県聴覚障害者協会事務局長の河原雅浩さん 
 施設よりも地域で生活するという考え方が、世界の潮流。今回の事件については容疑者自身にも問題があったと思うが、障害者に普段接する機会がないということも大きい。
 
 日常的に会う機会をつくっていくことが大切だ。生まれ育った場所で住民と毎日会える生活をできれば、周囲の理解が進む。障害者自身も社会とつながることができる。当事者に希望する居住先の意見を聞く場合、映像を見せたりするだけでは想像できないのではないか。

 実際に地域での生活を経験させて、それでよいといえば続ける。施設がいいのであれば、施設での生活を続ける。そういうやり方も考えてほしい。部会での検討が5月までというのは短すぎる。もっと時間をかける必要がある。

県視覚障害者福祉協会理事長の鈴木孝幸さん
 入所者の意向確認については時間をかけて、じっくりやらなくてはならない。地域で障害者をどうやって理解していくかという取り組みが必要なのに、その計画が立ってない。やまゆり園の入所者全員が地域移行できるわけではないことは理解していて、建て替えは仕方がないとは思う。

 だが、60~80億円かけて再建するのであれば、施設の規模を縮小して地域移行に経費を回すべきだ。大規模施設から地域へが世界的な流れ。やまゆり園だけでなく大きな入所施設の地域移行をどうするかということを考えていかなくてはならない。

知的障害者当事者グループ「県本人の会『希望』副会長」の冨田祐さん
 いちばん大事なのは本人の意向。やまゆり園入所者は話をするのが難しい人が多いのではないか。そういう場合は分かるまで説明した方がいい。住むのは本人だから。施設は小規模にした方がいいと思うが、本人の意向を聞かない限り計画は前に進まない。

県身体障害者連合会会長の戸井田愛子さん
 やまゆり園にこれだけのお金をかけて立派なものをつくるのではなく、いろんな地域に施設をつくって地域の中で見守ってあげたいというのが、私を含め知的障害者のお母さんたちが祈っていること。遠くに施設をつくると、親も高齢になってなかなか子どもに会いに行くことはできない。

 施設を各地域に分散すれば、地域で見守れるし親も会いに行ける。当事者の声を聞いて、反映させてほしい。県の憲章に基づいて、誰もがその人らしくいろんなことが実現できる社会をつくってほしい。

神奈川工科大教授の小川喜道さん
 県が示した基本構想のコンセプトは防犯対策や個室化など目新しい話ではない。最も考えなければいけないのは、障害者一人一人が望む暮らしを把握し、生活を組み立てる支援をすることだ。

 重度障害があっても、感情や意思、快不快や喜怒哀楽がある。それらをしっかり受け止める作業なくしては計画は前に進まないのではないか。

弁護士の内嶋順一さん
 障害者が生まれ育ったところで健常者と一緒に暮らすのが当たり前ということを目指すポリシーが見えない。当事者や家族のことを考えると、今の場所に施設を造るのはやむを得ないとは思う。ところが、大規模施設を造ると、今の入所者だけでなく、地域で施設に入ることができない人の受け皿となり、また同じことの繰り返しになる。

 人里離れたところに障害者が集められて生活している。今のような大規模施設が、容疑者の誤った行動原理をつくるきっかけになったかもしれない。住み慣れた場所で暮らすということを基本に据えてほしい。

 弟に障害がある家族としていうが、家族には家族のエゴがある。家族の意見を聞くのも結構だが、当事者の意向は本当に反映されているのかを慎重に考えてほしい。

 
 

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