1. ホーム
  2. ニュース
  3. 社会
  4. 時代の正体〈369〉自民改憲草案(1) 古色蒼然とした「前文」

時代の正体〈369〉自民改憲草案(1) 古色蒼然とした「前文」

社会 | 神奈川新聞 | 2016年8月4日(木) 09:28

倉持麟太郎弁護士(左)と船田元自民党憲法改正推進本部長代行
倉持麟太郎弁護士(左)と船田元自民党憲法改正推進本部長代行

 参院選を終え、改憲議論の本格化が目の前に迫る。だが、たたき台となるべき「自民党憲法改正草案」に対する批判は少なくない。そもそも「改憲」は必要なのか。草案条文の理念と不合理、今後のスケジュールまでを、自民党憲法改正推進本部長代行の船田元氏と、憲法や安全保障に詳しい弁護士の倉持麟太郎氏が語り合った。改憲・護憲の2極対立を超えた議論から浮かび上がる自民改憲草案の真意とは-。4回にわたって詳報する。 


 「自民党憲法改正推進本部長代行と徹底討論! ~改憲と改憲草案について率直に聞いてみよう~」と銘打った対談で、倉持弁護士が、船田代議士を招いた。東京・渋谷の会場には一般参加者ら40人ほどが参加。2人の議論はざっくばらんに進められた。

 倉持 参院選が終わり、「改憲勢力が3分の2を超えた」などと報じられました。ただこれはフィクションという印象を受けた。つまり条文によっては3分の2を超えているものもあるだろうし、いまだに半分も賛同が得られない条文もあります。

 また、参院選で野党は「3分の2を取らせないこと」という宣言をした。これは「横浜ベイスターズ的だ」と私は思ってしまった。まるで「巨人に3連敗しないこと」を目標に掲げているかのようだ。野党はもっと高みを目指してもらいたい。

 これまでの改憲の議論は「この憲法を破棄したい」という非常に情熱のある、ある種、歪(ゆが)んだ情熱を持った方々と、一方で、「1文字も変えたくない」と、ある種変わった情熱を持った方々のバトルでした。今回もそれが繰り返され、まともな改憲論議がないまま、どちらかが振り切って、非常に極端な憲法改正がされるというのだけは避けたい。

 船田 これまで改憲派、護憲派の両方が極端になってしまい、その間の分厚い中間層が忘れ去られている。あるいはマスコミでも取り上げられない状況でした。

 私は、何でもかんでも改憲という立場ではない。憲法を一条一条見つめ直し、現代に合っているものは当然残していかなければいけない。一方、変えなければいけない部分は変えていきたい。それは9条も同じ。

 いま行われている憲法論議というのは、あまりにも2極対立で不毛な議論だ。もっと実のある、中身の濃い、そして将来の日本にとって有益、有用な憲法改正、あるいは改正しない場合もあるかもしれないが、そうした議論になればと願う。


倉持麟太郎弁護士(左)と船田元自民党憲法改正推進本部長代行
倉持麟太郎弁護士(左)と船田元自民党憲法改正推進本部長代行

 

メニュー 


 倉持 まず前文について見てみましょう。自民党の改憲草案では全文が改正されることになっています。

 現行憲法の「前文」には三大原則が書かれ、また核心的な部分として「立憲主義的」なものを採用するとし、そこに続けてこう書いてある。「われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」。立憲主義的ではない憲法さえも排除すると書いてあるわけです。

 自民の草案ではそこが丸々変わっていて「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち」とある。ちょっと古色蒼然(そうぜん)とした書き方で、これには批判および不安を抱いていらっしゃる方もいる。

 船田 まずですね、前提から申し上げたい。自民党改憲草案が作成された4年前、私は落選中でした。ただ草案は自民党で最終決定したものであり、自民党議員である限りはこれを認める立場です。

 決して改憲議論の中でこの草案を押し付ける、あるいはこれが改正に向けての原案である、または、そのたたき台であるというのは言い過ぎだと思っています。

 あくまでわが党の考え方として、細かいところまで盛り込ませてもらったもの。エッセンス(本質的要素)として頭の中に入れて議論していくことはあっても、これをそのまま、各政党間での改憲議論に生のまま出すということは避けるべきだし、やってはいけない。

 例えばレストランに行ってメニューを見る。その中から食べたいものを注文する。それと同じ。自民党改憲草案は、われわれにとってのメニューだと考えてもらいたい。

 つまり全部食べるということはあり得ないし、メニューを選ぶ中で当然変更もあり得る、ということ。

 倉持 この草案はどのくらいの人数の方が関与して作られたのか。

 船田 私が関わっていた2005年の改憲草案では5~10人程度の委員会が設けられ、最終的には自民党議員のほぼ全員がどれかの委員会へ入り検討しました。

 倉持 その中で、「これはわしの意見を通さないと嫌じゃ」という、声の大きい方がおられますよね。いま、党の重鎮におられて改憲を主導している方々と、12年に草案作成を主導した方々というのは、さほど変わっていないのでしょうか。

 船田 12年当時、自民党は野党でした。現状と比べ、自民党議員は3分の1ほどしかいない。

 そのとき議員だった方というのは選挙に強い方。その中には声の大きい方もいるわけです。そういうことを考えると、声の大きい方が核の部分を作ったし、いまの執行部の中にも相当数おられると思っています。

日本国憲法 前文
 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。

 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。

 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。


倉持麟太郎弁護士(左)と船田元自民党憲法改正推進本部長代行
倉持麟太郎弁護士(左)と船田元自民党憲法改正推進本部長代行


 

放  逐

 
 倉持 よくある批判ではありますが自民党改憲草案は、立憲主義的価値観について放逐(追放)したいという思いがあるのではないか。西洋から来たこの考えを非常に嫌悪しているマインドがあるのではないか、という意見があります。

 船田 憲法は権力を抑え、

国民の生活を豊かにするという原則を自民党が崩すということはない。

 ただ、

立憲主義に加え、「伝統や文化、歴史を大切にしましょう」とか、国情や国柄を憲法に加える必要がある、というのが自民党の考え方。それを条文にちりばめると、確かに古色蒼然としてしまうので前文のところで触れ、表現していこうということ。

 倉持 メニューをつまみ食いするという例もありましたけれど、前文も他の条文と同じように一部変更や加筆を考えなかったのか。全てを変えるというのは並々ならぬ意欲をそこに感じる。

 船田 前文の性格は各国によって多少異なっている。現行憲法の前文はとても重要な地位を占めています。自民党幹部の間では「前文に規範を入れるのはどうか」という議論があり、三権分立や主権在民、平和主義という三大原則を最小限残しつつも、国柄や国の状況を表すことで前文にしていこうという思いがあったのではないか。

 つまり憲法における前文の位置づけを変え、国全体のことを書いてみようという考え方だったのではないでしょうか。

この記事は有料会員限定です。

月額980円で有料記事読み放題/100円で24時間読み放題のコースも。詳しくはこちら

憲法に関するその他のニュース

社会に関するその他のニュース

PR
PR
PR

[[ item.field_textarea_subtitle ]][[item.title]]

アクセスランキング