

19人が死亡し27人が負傷した「津久井やまゆり園事件」から半年が経過し、施設を運営する法人「かながわ共同会」の米山勝彦理事長と入倉かおる園長が3日、県庁で会見を開いた。米山理事長は「事件は施設職員の勇気をも奪ってしまった」「まさに無我夢中の状況から、少し落ち着いてきたところ」などと述べた。冒頭の両氏の主な発言と会見でのやりとりを詳報する。
かながわ共同会 米山勝彦理事長
事件後、共同会は、ご遺族やご家族への対応、利用者の生活の場の確保、支援体制の整備に邁進して参りました。また、県の検証委員会の報告書を受け、県からの改善勧告にも対応し、まさに一丸となって誠心誠意取り組んできたところです。気が付けば6カ月がたった。

この間、誠に数多くの方々から弔問や献花をいただいた。現在も折に触れ献花に来られる方がおられ厚く感謝申し上げたい。
津久井やまゆり園は決して利便性の良いところではありませんが遠方から、あるいは海外からも、また体が不自由な方々も献花に駆け付けてくれた。
本当にみなさまのご厚意が心に染みいる思いだった。どれだけ利用者の方々、ご遺族、ご家族、私ども職員の心の支えになり、再出発の勇気になったか、本当に計り知れない。
また、障害者団体の関係機関などからさまざまな形で緊急対応として手を差し伸べてもらった。改めて感謝を申し上げる。
津久井やまゆり園は事件発生の7月26日未明から、大混乱だった。当日は夜勤で数少ない職員だった。職員それぞれが、被害に遭った方の救命、救護活動に当たった。現場に踏み込み警察とともに利用者の避難や、生活支援に当たった。私も、事件後現場に立ち入ったが本当に筆舌に尽くしがたい惨状だった。
その中で職員は、必死に活動し、血が点々と残る現場での業務を余儀なくされた。それに耐えてくれた。本当に心から頭が下がる思いだった。現在は、職員一同、まさに無我夢中の状況から、少し落ち着いてきたところ。
しかし事件から時間が経過すればするほど、被害に遭われた方々への悲しみ、申し訳なさで、心が痛む。そしてまた理不尽な、そして途方もなく納得のいかない、本当に何もかもむちゃくちゃにした事件だったと思う。容疑者に対する憤りはおさめようにもおさまらない。
次にこの事件を振り返りますと、事件の重大さに今更ながら愕然とする。
それは一つにはやはり19人の方々の命が奪われ27人の方が負傷されたということ。障害がある方々の人生を豊かにすべく努めてきた施設の中で、突然に命を奪われ長い人生を奪われた。その無念さというもの、負傷された方々の痛みと苦しみ、障害者の方々と一緒に長い人生を歩んできたご家族の悲嘆さを思うと、警察と共に防止対策をしてきたにも関わらず防ぐことができなかった悔恨を消し去ることは毛頭できない。
ご遺族の方々の切々な思いを本当に心に突き付けられ、一生忘れることはできない。
二つ目は、全国の障害のある方々に不安をもたらし、そして日常生活にも影響をもたらした。「障害者はいなくていい」と報道された。容疑者のそういった言葉について、私たちは未だに耳を疑う。
さらに障害者福祉に携わる者の誇りを傷つけ、社会的信用を失墜させた。私どもだけでなく、日本社会に衝撃を与えた事件であると思っています。
三つ目には、事件の容疑者が元職員であるということ。私どもは、常日ごろから利用者と職員、職員と職員が皆分かり合ってやっていこうとしている。信頼と誠実を理念として運営していこう。地域に開かれ、地域から愛される施設としてやっていこうとしてきた。実際に地域の皆様から多くの声をかけてもらい、愛されてきた。
ところが、今回の事件は、そうした職員や関係者の心をないがしろにした。個人個人の差があるとは思うが、われわれ職員の勇気をも奪ってしまったのではないか、という思いが強くある。
職員は誠心誠意やってきた。そういう職員がこの事件のために下を向いて仕事をしてしまうということがないように、今までと同じように前へ進んでいけるように。これがわれわれ幹部職員の最大の課題だと思っている。
次に、容疑者と事件の背景についてお話します。
今回の事件は元職員が容疑者ということで、かながわ共同会にとって極めて厳しい状況にあります。
容疑者については、新聞報道から類推しますと、職場での顔と、私生活の顔に落差がありました。私生活の部分で、入れ墨に執着したり、あるいは自己顕示欲的な言動があった。職場と私生活の間で相当な落差があったのだと思っている。
犯行の動機は何であったか。職員には一生懸命研修をしてきたが、何か落ち度があったのか。さまざまな疑問が生じる。犯人のみが真実を知っているということだと思う。起訴されれば裁判の中で明らかになっていく。しっかり裁判を注視し、その中から一つでも二つでも、再発防止のための鍵を見つけていきたい。
犯行に至る背景ですが、社会的要因についても今後、いろいろ検討していかなければいけないと考えている。
次に、かながわ共同会に対する(県からの)改善勧告とそれに対する対応について。検証委員会の報告を受け、(県が共同会に)勧告を行い、それに基づき法人(共同会)は2016年12月26日に改善計画書を提出し、承認された。
改善計画書の内容は五つ。一つは法人制度の見直しに関すること。二つ目は危機情報に関する点。三つ目は情報共有と相互理解の深化。四つ目が安全管理対策の実施。五番目が地域との連携です。
実施状況は毎月県に報告する。今後、長期的に実施していくことになる。
次に、理事長の進退問題について。県知事に対して、今回の事件の重大さに鑑み、指定管理者として、その責任は極めて重いということで辞任の意向を伝えた。辞任の時期については、これから始まる(新しい)施設の安定着地。改善計画の進ちょく状況、さらには法人制度改革などの進ちょくに配慮しながら適切な時期を決定する予定です。
最後に改めて、亡くなられた方々の冥福を祈り、負傷された方々の心身の回復を思い、津久井やまゆり園はこれまでそうでしたが、地域と共に生きていく。引き続きご指導ご支援をお願いしたい。

津久井やまゆり園 入倉かおる園長
最初に、お亡くなりになった19人の方のご冥福をお祈り申し上げます。
私からは理事長の説明にもあったように、津久井やまゆり園の現状についてご報告する。
津久井やまゆり園は事件前、150人の入所者支援、10人の短期入所の支援を行ってきた。事件の日に19人のかけがえのない命が奪われ、27人の方がけがを負った。この中の24人の利用者の方々は、入院治療を終えて戻ってきた。医療関係者、消防関係者の方々へ厚くお礼申し上げる。

また、足しげくお見舞いや、看病に当たったご家族、関係者の皆様にもお礼申し上げる。
事件直後から、緊急の生活の場として県内各施設から受け入れのお話をいただいた。その話を受け、他の施設に移っていただいた方々もおられた。声をかけてくださった関係者、現在も受け入れを続けてくださった関係者へも感謝申し上げる。
また急に環境が変わり戸惑ったり、不安を抱えたりした利用者の方々、ご家族の皆様にはご心配をおかけした。いまは新しい生活にも慣れてきたという話も聞いているところだが引き続きよろしくお願いする。
やまゆり園と分園では、落ち着かない日々が続いたが少しずつ環境に慣れてきていると聞いている。
事件当日から休止となっている短期入所は現在、県内だけにとどまらず、県外施設にも協力いただいている。今後もしばらく休止が続く。
在宅の方々には、通所サービスをご利用いただいていたが、こちらも事件直後は休止状態で、他事業所で対応してもらったが、8月の下旬から再稼働している。現在は落ち付きを取り戻しつつある。
職員については、抱えきれないような思い中で、絶えることなく目の前の支援に取り組んでいる。県、相模原市、杏林大学の合同で編成された心のケアチームの支援を受けながら、どうにか今日まで乗り切ってきた。今後も必要に応じて相談できる体制を作ってきたい。
この冬の季節は、インフルエンザやノロウィルスが流行している。基本的な健康管理をしっかりして、落ち付き始めた生活にブレーキがかからないよう、職員一同心がける。この半年、本当に多くの方々の支援に後押しされ、また家族会のご理解、ご協力をいただきながら、一つ一つ誠心誠意取り組んできた。それはこれからも同じ。いまは特に4月からの仮移転に向けて準備を進めている。
今後も他の施設でお願いをし続けていく方もおられ心苦しいところだが、関係者のご協力を引き続きお願いしたい。
私たちは初心に返り入所者の支援に取り組んでいく。進むべき道は長く険しいものだと思っているが、ご協力をいただきながら、務めていきたい。
「最近は笑顔も増えつつある」
津久井やまゆり園の入倉かおる園長は3日の会見で、事件後の入所者の様子や施設職員の心のケアなどについて語った。「(入所者は)最近は笑顔が戻ってきたり、身体の動きも少しずつ戻ってきたりという方が増えつつある」と実感を口にした。会見の主なやりとりは以下の通り。

入所者の事件後の暮らしぶり
記者 事件から半年が過ぎた。いま現在の入所者の様子は。
入倉園長 利用者の方々の表情、行動も含めてお伝えしますと、私どもも思いもよらないことだったので、利用者の方も本当に大混乱の毎日だった。いつもニコニコしている方から笑顔が消えたり、普段ならば食事をするときに自分の席に自分で移動できる方が、あるいはトイレに自分で行ける方が、環境が変わったことで全然いすから立ち上がらなくなってどんどん足が弱ったりしている。今回の事件は、けがなどをしなかった利用者全員にも被害があったと感じている。
でも、おかげさまで年末くらいから少しずつ今の環境にも慣れてきてもらったのと、園内の活動などもお別れ会の後くらいからは少しずつお散歩したり、外に出掛けたりという動きが回復してきたので、最近は笑顔が戻ってきたり、身体の動きも少しずつ戻ってきたりという方が増えつつある。
事件で亡くなった方のことを思い出す、お名前を呼んだり、という方がいます。一緒に過ごしていた方なので。だから大きな声で泣くとかいうわけではないが、職員もそうした声を聞くと悲しくなるような状態がある。

記者 入所者に事件の説明をしたという話だが、どの程度理解されているのか。
園長 それは一人一人、差がある。日頃テレビを見るのが好きな方は、事件直後は「津久井やまゆり園」がどのチャンネルにも出ているし、容疑者の名前も出ているので、そのことが頭に入って元気がなくなった方もいる。いつもは土日に外に出掛ける方も、元気がないので出掛けないという方も事件直後にはいた。
厚木市内の仮住まいに移った方々には、事件があったので今ここにいる、迷惑をかけたね、と説明すると「そうだそうだ」とうなずてくれる方もいた。
やはり、事件の日にはどんな方が亡くなったのか分からないまま体育館に避難したり、ホームに集まったりしたので一体自分の住んでいたところがどうなったのか分からず時間が過ぎたというのが実は現実。しばらくして写真を見ていただいて、被害にあった方に対して手を合わせることで気持ちが落ち着いたと言ってくれる方もいた。
写真を見て、悲しみというかやりきれない思いになって涙を流す利用者の方もいる。私どもと同じで何か訳が分からないまま過ぎていくというのはよくなくて、写真に手を合わせるとか、月命日にその方々を悼むような時間を持つことで乗り越えていっていただくことなのかなと思う。
施設職員の心のケア
記者 職員の人たちのケアについてはどうか。
園長 職員はそれぞれだが、やはり事件当日に夜勤だった職員はいまもリハビリ勤務をしている。復帰に向けて少しずつ時間を延ばしたり、勤務の形態を広げていくような対応をしている。個別の相談が必要な職員については産業医を含め、個人的に医者にかかっている職員のことも園として把握して、焦ることなく一人一人のペースを尊重して仕事をしながら元気になっていってもらえるようにケアを続けていきたい。完全に休職している職員はいない。
記者 職員で退職された方はいるのか。
園長 いません。

事件の兆候について
記者 職員と話をした中で、元職員の容疑者が犯行に至る背景について、半年たった今だから分かることは何かあるか。
園長 園長と面接したいという職員が多くてこれまで対応してきたが、私自身も話の中から、もしかしたらそうした手掛かりや「そんなことがあったのか」とあらためて聞けるかもしれないと期待したが、実は職員も「まさか起こるとは思わなかった」と話したのを聞き、やっぱり私と同じなんだと感じた。実はこんな情報もあると事前にキャッチできれば、なぜ気づかなかったのかと後悔につながるわけだが、本当に身近な職員でさえも元職員が急に変貌して戸惑った、という同じ思いを語っていた。数多くの職員と話してもそうだった。
記者 ヒアリングでも兆候に気づかなかったということだが、園として対応に不備があったとすればどういう点と考えるか。気づくのは無理だったと考えているのか。
園長 (同僚に対して障害者の人権を侵害するような発言をするなど)元職員の兆候に気づいたのは退職直前。だから自然に退職したわけではなく、面接をした結果、退職をしたわけだ。ただ、それよりも前にどうして気づけなかったのか。私どもが知り得なかった大麻の話とか、職場ではキャッチしていなかった。職場外のことを職場の人間としてキャッチしきれなかったのは悔やんでいる。
全面建て替えへの異論について
記者 県が示した「津久井やまゆり園」の全面建て替えの基本構想に対し、障害者団体などから「小規模化すべき」「地域に戻すべき」といった異論が相次いだ。家族会や共同会は現地建て替えを要望したということだが、現状は県が基本構想をあらためて議論する動きになっている。共同会としてどう受け止めるか。

米山勝彦理事長 どういう形で、どういう規模で再生をしていくかは今後、県で基本構想などを練っていくことになる。共同会としては現在生活をしている百数十人がいるので、その方たちの生活をきちんと立て直す形で臨みたい。施設の考えはいろいろあるので、それは基本構想の議論の場などで共同会や家族会の意見を求められれば出向いて発言したい。規模や内容はこれからだが、いまの状況では生活してきた利用者や職員の方々の思いを考えると現状でいいとは思わないという考えは変わらない。全面建て替えはしなければならないと思う。
入所者の意向確認をどう進めるか
記者 利用者からの聞き取りや意向確認をどう進めるか。
理事長 利用者の心に沿って、障害の程度に沿って支援する。これまでもやってきた自負はある。利用者のこれからのこと、何をどうするかの意思決定の支援についてはやってきたが、これからまだまだやらないといけない。ひとつひとつ一人一人丁寧に気持ちを聞いていく、心を通わせていく中でニーズを把握する。基本的にはすべて利用計画に基づいて支援の決定をする。障害の状況によって意思をきちんと述べられる方、なかなかそこまで行かない人もいるので、どうニーズや意思決定を把握するのかは、これからまさに問われる課題かなと思う。
記者 利用者の心に沿った支援は大前提という話だが、いま県も入所者の意向を確認するために、その方法も含め検討している。その点についてどう受け止めるか。
理事長 意思決定を含め意向の確認は大変難しい。やまゆり園の方は重度(障害者)の方が多いので、私どももどのようにするかノウハウを含め早急に検討していきたい。

