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時代の正体〈362〉条例はなぜ必要か(下)川崎らしさ反映を

社会 | 神奈川新聞 | 2016年7月24日(日) 10:39

ヘイトスピーチ規制について審議した専門部会=20日、川崎市役所
ヘイトスピーチ規制について審議した専門部会=20日、川崎市役所

 自治体としてヘイトスピーチ(差別扇動表現)をどう規制していくかの議論が川崎市の付属機関・市人権施策推進協議会で始まった。ヘイトデモは今後も行われる恐れがあり、「喫緊の課題」とする福田紀彦市長の諮問を受けたもの。年内の報告書づくりに向け、協議会の専門部会での集中審議もスタートし、委員からは条例の制定も念頭にヘイトスピーチを防ぐための条件、基準づくりの必要性が語られた。

 13日の協議会。市内における一連のヘイトデモの経過が市の担当者から説明された。まず示されたのは、ヘイトスピーチ解消法の条文と付帯決議にうたわれた自治体の責務。

 〈地方公共団体は、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、当該地域の実情に応じた施策を講ずるよう努めるものとする〉 (第4条2項)
 〈本邦外出身者に対する不当な差別的言動の内容や頻度は地域によって差があるものの、これが地域社会に深刻な亀裂を生じさせている地方公共団体においては、国と同様に、その解消に向けた取組に関する施策を着実に実施すること〉 (参院付帯決議)

 ヘイトデモの被害にさらされてきた在日コリアン集住地域・川崎区桜本の現地視察を経て成立したことにも触れ、この法律は川崎でこそ生かされるべきだ、ということが示唆された。

 2013年5月から市内でヘイトデモを主催してきた男性が12回目となるデモを行うと予告した6月5日はヘイトスピーチ解消法の施行2日後。集合・集会場所として同区内の公園の使用申請が出され、桜本地区を目がけて行われた直近2回に続く「川崎発!日本浄化デモ第三弾」と告知された。

 主催男性の過去の言動と合わせ人権侵害が起こる可能性が高いとして、福田市長は「市民の安全と尊厳を守るため」公園の使用を認めなかった。根拠としたのは、公園の管理に支障をきたさない限りは利用を許可できるとした都市公園条例。ヘイトデモが繰り返された場合、支障が生じると判断したもので「ヘイトスピーチ解消法の施行直後に計画されている全国最初のデモ。漫然と行わせていいのかという政策的判断もあった」。市民団体だけでなく無所属を含め全会派そろった市議会の要請、弁護士会の会長声明なども決断を支えたといい、「そうした声も踏まえ総合的に判断した」と強調した。

基  準


 ヘイトスピーチは許されないとする法律が示した理念と自治体の責務、市民の代表たる議会の総意、ヘイトスピーチを規制する規定がない条例から不許可という答えを導いた総合的な判断-。そこに課題が浮かび上がる。

 委員からは基準づくりに前向きな発言が続いた。

 「これからはきちんとした基準をもって不許可の判断を下せる仕組みをつくり、市長の判断を支えることが必要だ」

 「市長が頑張り、議員が頑張り、市職員が頑張って、その組み合わせがたまたまよかったから防げたというのではなく、市の対応を示せるものをつくりたい」

 「公共施設の利用を制限することでヘイトスピーチを防ぐやり方なら市の権限で可能ではないか。合理性のある基準を設ければ判断が恣意(しい)的にならず、訴訟にも耐えられる」

 川崎市には人権侵害に関する相談・救済を申し立てるオンブズパーソン制度があるが、「対象は子どもと女性。いずれも子どもの権利条例と男女平等かわさき条例で人権を守るとしている。これに対し、外国人市民の人権を守る条例がないため、外国人は制度の対象外だ。相談体制充実のためにも根拠となるものがなければならない」との指摘もなされた。

 委員からは「人の行為を規制する難しさがある。規制により別の人権問題が生じた場合、どう対応するのかも含めて議論しないといけない」といった声も上がった。審議を終え、報道陣に囲まれた阿部浩己会長は強調した。「ヘイトスピーチによる人権被害は回復が難しい。事が起きてからの対応も大事だが、事前に何ができるか。ヘイトスピーチを防ぐ要件、条件をどうつくるか、だ」

 神奈川大法科大学院教授(国際人権法)の阿部会長は、人権行政は人権諸条約が示す国際基準に則して行うべきだ、というのが持論。そこではヘイトスピーチ規制も表現の自由の正当な規制とされる。さまざまなルーツを持つ人々が暮らす現場である自治体だからこそ国際的な視点を打ち出すことができるとも考える。「国より知見が集まっている自治体が、国の施策を引っ張っていくこともあり得る」。ヘイトスピーチ解消法に続く差別撤廃に向けた歩みを先取りする意欲をのぞかせ、阿部会長は言い添えた。

 「表現の自由に関わる問題なので議論は慎重にするべきだと思っているが、『慎重に』とは、何もしないということではない」

進  取


 20日、協議会の専門部会「外国人市民施策部会」の審議では広い視野からの提起もなされた。

 口火を切ったのは川崎・桜本で多文化共生のまちづくりに取り組む社会福祉法人青丘社理事長の裵(ぺ)重度(ジュンド)委員。「人種差別撤廃条約に基づいた広い意味での人権条例ができないだろうか」

 日本も加入する同条約は人種、民族、社会的地位といったあらゆる差別を包括的に撤廃するよう求める。ヘイトスピーチはそうした差別の一形態という位置付けだ。

 元市職員の小宮山健治委員が議論を引き取った。

 「川崎市の人権施策を推進していく上で、突破口になったのは在日コリアンが抱える問題だった。市にとっても地域社会の問題として一緒に考えながら解消していこうと取り組んできた。これに対し、ヘイトスピーチは外部から攻撃されている印象が強い。市民、市民社会に対する攻撃であり、市が取り組んできた施策への攻撃だ」

 指紋押なつ拒否運動、職員採用の国籍条項撤廃運動など、在日コリアンの当事者として行政交渉を重ねてきた裵委員が言う。

 「いつだって、国が決めることなので自治体はこれ以上できませんという壁に直面してきた。市民運動に携わってきた者からするとヘイトスピーチ解消法ができたのはとても意味深いものだった。理念法とはいえ国が法律をつくった。動かしたのは地域社会からの訴えだった。その川崎が考える多文化共生というのはこういうことなんだと示し、国をも感化するような条例をつくりたい思いがある」

 いつにも増して、静かなる熱を帯びた語り。

 「国による包括的な反人種差別法づくりは停滞しているが、人種差別撤廃条約の精神を反映した条例を先んじてつくり、国を動かしていくくらいの意気込みを持ってもいいのではないか」

 駒沢大法学部教授(政治社会学)の中野裕二部会長が応じた。

 「男女平等かわさき条例、子どもの権利条例はそれぞれの国際条約を根拠規定にしている。多文化共生に取り組んできた川崎らしさとして、人種差別撤廃条約の精神にのっとった条例をつくることが、川崎の歩みをさらに進めるという意味でも重要だ」

 川崎でヘイトデモを繰り返してきた男性に対しては、桜本地区にある青丘社の事務所の半径500メートル以内でのデモを禁じる仮処分が横浜地裁川崎支部によって出された。ヘイトデモを「平穏に生活する人格権に対する違法な侵害行為」「憲法の定める集会や表現の自由の保障の範囲外」と断じ、事後の権利回復が困難だとして予防を求める権利までを認めた決定。それは桜本における誰もが共に生きるまちづくり、その長年にわたる取り組みがあってこその判断だった。排外主義は共生という尊い営みへの攻撃にほかならず、だからこそ害悪の違法性は導き出された。

 中野部会長は続けた。

 「こうした判決を積み重ねながら社会全体のルールが作られていく。だから市には訴訟を恐れないでほしい。不許可の判断が適切であると判断されれば、それがまたルールを作ることになる。そのためにも、判断が恣意的でない、合理的なものだと説明できるよう法令を作っていかないといけない。一番よくないのは市が当事者との紛争を避けることだ」

 次回の専門部会の審議は8月10日。

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