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広がる「こども食堂」

社会 | 神奈川新聞 | 2016年7月20日(水) 16:46

「サンタこども食堂」を開設し、参加した子どもたちに話しかける吉田登さん(中央)=横浜市港南区の港南台地域ケアプラザ
「サンタこども食堂」を開設し、参加した子どもたちに話しかける吉田登さん(中央)=横浜市港南区の港南台地域ケアプラザ

 「こども食堂」が県内でも広がりをみせている。子ども1人でも食べに来られる食堂を地域の大人たちが開き、誰かと一緒に食事を囲む楽しさを提供する取り組みだ。食堂の中には「貧困対策」のイメージから集客が思うように進まなかったり、本当に困っている親子につながれなかったりと課題に直面しているところもあるが、地道な取り組みで少しずつ地域に信頼される場所になりつつある。 

大人の思い


 夕方、横浜市西区の自治会館に学校帰りの小中学生が集まってきた。この日は、住民ボランティアが手作りしたカレーやサラダが無料で振る舞われる月1回の「こども食堂」だ。

 横浜駅から徒歩15分の好立地とあって共働き家庭が多いこの地域では、商業施設が豊富なこともあり、夕方になると小中学生だけでレストランやフードコートで食事をする姿も見られるという。放課後に子どもたちが安全に過ごせる場所を作ろうと、地域住民有志が2月から始めた。

 参加した小学2年の女児(8)は母親が仕事で午後8時に帰宅するため、日頃は近所の親戚宅で夕飯を食べているという。「今日は友達と夕飯を食べられて、お祭りみたいで楽しかった」と喜んだ。

 食堂を開く大人の思いはさまざまだ。

 鶴見区でラーメン店を経営する原賢美(かしみ)さん(56)は、自身も幼少時にひとり親家庭で育った。仕事中の事故で亡くなった父親の代わりに、母親が昼夜働いて生計を立て、小学校低学年だった原さんと3歳下の弟は2人でたびたび近所の中華料理店でラーメンを食べた。

 最近、子どもだけで夕食をとる家庭が増えていると知り、「同じ境遇の子たちを励ましたい」とひとり親家庭の小学生20人に月1回、ラーメンセットを無料でふるまう。

 港南区で「サンタこども食堂」を始めた吉田登さん(74)は、タイでエイズ孤児施設を運営していた。帰国後、日本にも食事に困っている子どもがいると知って衝撃を受け、施設の支援メンバーらの協力を得て月1回食堂を開く。

悩み悶々と



 日本の子どもの6人に1人が貧困状態とされる。横浜市の市民アンケートでも、最低限度の生活水準を意味する「貧困線」を下回る暮らしを強いられている子どもの割合が7・7%、「お金が足りなくて、必要とする食料が買えないことがあった」という問いへの「よくあった」「ときどきあった」の返答も計4・6%に上った。

 横浜市では「横浜こども食堂ネットワーク」の準備会が発足し、関連団体による情報交換やボランティア募集、食材の融通などに取り組もうとしている。

 4月に開かれた初会合には、食事を通じて地域に子どもたちの居場所を作ろうという熱意ある大人たちが集まった。

 しかし既に運営を始めた団体からは「こども食堂に貧困対策というマイナスイメージを感じる人もおり、子どもが集まらない」という悩みも寄せられた。

 市内でこども食堂を展開する男性は「既に6回開催したが、習い事帰りの親子など本来の趣旨とは異なる層の利用者が多い。いつになったら本当に困っている子どもたちとつながれるのか、悶々(もんもん)としているところもある」と正直な思いを吐露する。

 同ネットワーク準備会の米田佐知子さんは「食堂の運営を通して、子どもを思いやる地域の大人たちが連携を深めることに意義がある。活動を継続できるよう、食材の融通などができるネットワークを構築したい」と話す。

長い視点で

 全国各地のこども食堂が参加する「こども食堂ネットワーク」(東京都渋谷区)には現在91カ所が参加。都内が51カ所と最多で、神奈川県内が8カ所で続く。NPO型、個人型、飲食店型などさまざまな形があるが、昨夏以降に急激に増えているという。

 同ネットワークが主催する「こども食堂のつくり方講座」も人気で、昨年7月からの計5回で約140人が参加した。

 事務局の釜池雄高さん(39)は「困難を抱える家庭や子どもにつながるのはとても難しい。まずは地域に信頼される場所になることを目指して、長い目で活動を続けて」とエールを送る。



 先駆的存在である東京都大田区の「気まぐれ八百屋だんだん こども食堂」。主催者の近藤博子さん(56)に運営のこつを聞いた。

 開設は2012年8月。もともと居酒屋だった場所で青果店を営んでいたところ、買い物に来た近所の小学校の副校長から「母親がうつ病で夕飯をきちんと食べていない1年生がいる」と聞いたのがきっかけだ。


「時間はかかるが、続ければ地域に信頼される場所になる」とこども食堂の運営について語る近藤さん=横浜市港北区
「時間はかかるが、続ければ地域に信頼される場所になる」とこども食堂の運営について語る近藤さん=横浜市港北区


 隔週で始め、15年4月からは毎週木曜日に回数を増やした。野菜中心の定食メニューを毎回約30食、子どもには300円で提供する。1人暮らしの高齢者や親子連れも訪れる。

 最近ようやく「困っている子」が7人ほど来てくれるようになった。母子家庭のきょうだいや、祖母に育てられている中学生。電車やバスを乗り継いで来る子もいる。「あそこなら行かせてもいいかなと、やっと親から信頼を得られた」と実感している。

 自身の経験から、こども食堂を新たに始める人には「困っている子は誘ってもなかなか来ないが、本当に困ったときに力になってくれる大人がいる場所があることが重要。地域の信頼を得られるまでには時間がかかるが、続けることが大事」とアドバイスする。

 同時に「こども食堂は、食事に困る子にご飯を食べさせるだけの場所ではない」と言う。温かい食べ物を介して気持ちが和らぎ、ぽろっと本音をこぼせる場所。それをスタッフが上手にキャッチして、行政など適切な機関につなぐ場所。「社会が複雑になる中、大きな意味を持つ場所になってきている」と近藤さん。

 近藤さんは、近隣の学校公開日や児童館に頻繁に出向く。子どもの集まっている場所に足を運べば「困っている子がいるか何となく分かる」からだ。地域の民生委員らとも関係を築く。

 「現代の子育て世代の生きづらさや背景にある社会の課題にも視野を広げ、子どもだけでなく親も支援してほしい」と話している。

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