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被災者置き去りか 渦巻く不信感

社会 | 神奈川新聞 | 2016年7月9日(土) 11:55

参院選候補の演説に耳を傾ける村田弘さん=横浜市内
参院選候補の演説に耳を傾ける村田弘さん=横浜市内

参院選候補の演説に耳を傾ける村田弘さん=横浜市内
参院選候補の演説に耳を傾ける村田弘さん=横浜市内

 5年ぶりに自宅で暮らせるようになる。待ち望んできた日のはずだったが、村田弘さん(73)の気持ちは晴れない。「戻りたいが、戻る気にはなれない。住める状況じゃないから」

 13年前、退職金の半分をつぎ込んでリフォームした自宅があるのは、福島県南相馬市小高区。東京電力福島第1原発から、わずか16キロの距離だ。2011年3月の事故直後から小高区は避難地域に指定され、村田さんは横浜市旭区での避難生活を余儀なくされてきた。その避難指示が12日、一部を除いて解除される。

 浮かない表情には理由があった。「昨年末、自宅の放射線量を専門家に測定してもらうと、庭の土壌は基準値の10倍。畑は3倍だった。除染は終わっているはずなのに、とても人が住めるような値ではなかった」。地域にある約4900戸のうち、約500戸の除染は終わっておらず、住宅地以外は手つかずのまま。道路脇には汚染土壌が入った巨大な袋が並ぶ。

 生活基盤の復興も見通せない。日用品の買い物ができるのは、市がつくった小さなスーパー一つだけ。病院の診察時間は平日の昼間に限られている。一番の不安材料は、やはり福島第1原発だという。「汚染水の処理は進まず、小さなトラブルが絶えない。もしまた大きな事故が起きたらどうなるのか」

 帰還を決心する住民がいる一方、多くの住民は二の足を踏んでいる。昨年、南相馬市が小高区の住民を対象に行った意識調査をみると、地元に「戻る」と答えたのは20・2%で、「条件が整えば戻る」は26・4%。28・8%が「戻らない」と答えていた。

 だが、住民の意をよそに避難指示の解除が進むのは、南相馬市だけではない。国は放射線量が高い帰還困難区域を除き、福島県内の避難指示を17年3月までにすべて解除する方針だ。すでに葛尾(かつらお)村、川内村の避難指示は6月に解除されている。

 避難指示区域外からの自主避難者に対する住宅無償提供制度の廃止も不信の一因だ。福島県は来年3月での打ち切りを決めており、村田さんは「避難区域からの避難者への住宅無償提供もいずれ打ち切るつもりだろう。住めない家に戻らなければ、生活ができなくなる。被災者がどんどん苦しい状況に追い込まれている」。

 除染も生活基盤も不十分なまま避難指示を解除し、住宅無償提供を打ち切っていく。「なぜ国は急ぐのか。東京オリンピックまでに事故処理を終わったことにしたいからだろう。方針が先で、被災者は置き去りだ」。村田さんは憤る。

 参院選の1票を誰に託すか、悩み続けている。各政党の訴えは「被災地支援にきちんと取り組みます」というあいまいな言葉にしか聞こえないからだ。

 「震災復興の具体策を語ってほしい。具体的な争点を示さずに選挙に臨み、『勝ったほうが好きにやる』という意識では、だめだ」

 
 

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