実験動物中央研究所(実中研、川崎市川崎区)と慶応大医学部などの研究チームは、ゲノム編集技術で受精卵内の遺伝子を改変し、目的に応じた疾患を示すサルを誕生させることに世界で初めて成功したと発表した。30日発行の米科学誌「セル・ステム・セル」に掲載した。
新薬や治療法などを開発する場合、人での臨床試験の前に実験動物で安全性や効果などを調べる必要がある。生命科学分野ではこれまで遺伝子改変マウスが多く用いられているが、人の疾患の研究には直接あてはめられないケースも少なくなかった。
人と生物学的に近い霊長類で目的通りの実験動物を作製できることで、脳機能のメカニズムの解明や統合失調症や自閉症といった精神・神経疾患の解明にも貢献が期待されるという。
実中研マーモセット研究部の佐々木えりか部長と慶応大の岡野栄之教授ら研究チームは、小型のサルで成熟までの期間が短いコモンマーモセットに着目。受精卵の中にある特定の遺伝子をゲノム編集技術で破壊する方法で免疫不全マーモセットの作製を試みた。
これまで霊長類に関してはマウスと異なり遺伝子破壊が細胞ごとに不均一となる「モザイク現象」が起き、目的通りの症状を示さないことが課題だった。研究チームはゲノム編集の失敗を事前に判定できる新技術も開発し、高い発現率を可能にした。
作製した免疫不全マーモセットは人の重症先天性免疫不全症と似た特徴を示しいるといい、免疫不全症の発症メカニズムの解明やiPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いた臓器再生医療の治療法開発にも有用だという。