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ヘイトスピーチ考
時代の正体〈436〉厳しい姿勢、日本人が示す

社会 | 神奈川新聞 | 2017年2月1日(水) 10:55

【時代の正体取材班=石橋 学】在日コリアンに対する差別をあおるヘイトデモが繰り返されてきた川崎市でわが街の荒廃を憂いてきた元国会議員がいる。元自民党参院議員で川崎市日韓親善協会会長の斎藤文夫氏(88)。市が取り組むヘイトスピーチを事前規制するガイドラインと条例づくりの動きをどう見ているのか。同じく地元選出の同党衆院議員で党国際局長の田中和徳氏とともに聞いた。


さいとう・ふみお 1928年生まれ。県議を経て86年から98年まで参院議員。県日韓親善協会会長、県・川崎市観光協会会長、川崎港振興協会会長など歴任 
さいとう・ふみお 1928年生まれ。県議を経て86年から98年まで参院議員。県日韓親善協会会長、県・川崎市観光協会会長、川崎港振興協会会長など歴任 


川崎市日韓親善協会会長/斎藤文夫氏
 私には原体験と呼ぶべき出会いがある。

 戦時中、三菱重工の鹿島田工場に学徒動員され、職場に鄭(てい)さんという朝鮮人がいた。夜学に通う、真面目で向学心に燃えた2歳上の先輩だった。二人きりの職場で、僕が日本人だからずっと敬語を使っていたのを覚えている。私は一人っ子で比較的ゆとりがあったから、餅菓子があれば二つ持っていって一緒に食べた。人類愛とか大それたものではなく、同じ職場で働き、苦労を共にする仲間として自然な感情だった。

 1977年、日本で初めての日韓親善協会を川崎で立ち上げるとき、その人のことを思い出したものだ。国同士がぎくしゃくしても市民一人一人は手を結んでいこうと取り組んできた。

 そんなわが街、川崎でヘイトスピーチが繰り返されていると知ったのはテレビのニュースでだった。

 川崎区浜町の焼き肉店がコリアンタウンを立ち上げたときのことを思い出した。主賓のあいさつに立つと沿道から「斎藤、浜町を韓国に乗っ取らせるのか!」とやじが飛んできた。それから何十年もたち、そんなことを言う人はいなくなったと思っていたから信じられない気持ちだった。

 在日コリアンはともに地域の発展に貢献している人たちだ。日本鋼管(現・JFEスチール)では強制連行され、無理やり働かされた人たちもいた。故郷を離れ、ここまで懸命に生きてきた。その人たちや子孫に「出て行け」なんて、日本人の私でもふざけるなと言いたい。そんなことを言える立場ではないはずだ。

 昨年6月、多くの在日コリアンが暮らす川崎区桜本でまたデモがあると聞き、日韓親善協会として看過したら存在意義がないと思った。政治的な活動は初めてだったが、日本人が動こう、日本人が厳しい姿勢を示すことがヘイトスピーチを抑えることになると、日韓友好市議会議連にも一緒に行動するよう呼び掛けた。

 公園や道路の使用許可を出さないよう、そろって福田紀彦市長や警察に要望書を手渡した。日本が一流国というのなら、多民族と共生していかなければならない。ヘイトスピーチは日本の恥と決めつけずして何と言おうか、と。

 結局、福田市長はデモ主催者に公園を貸さないという決断をしたわけだが、英断だったと思う。自治体の権限の範囲でできる限りをやった。いい手本を示したのではないか。

 ヘイトスピーチの問題は終わったわけじゃない。二度と起きないよう人権擁護の条例を作り、さらなる先鞭(せんべん)を付けるべきだ。人を傷つける言動は憲法で保障されている表現の自由には当たらない。良識を持ち、解消に努めるのが行政のあるべき姿だ。

 歴史を振り返れば、互いに言い分はある。でも、いろいろ理由をつけて属国にし、名前を変えさせたり、教育を押しつけたり、日本がどれだけひどいことをしてきたか。私の中学校の教頭は、関東大震災で朝鮮人に間違えられ殺されかけたと話していた。戦時中の朝鮮人は子どもの私から見ても貧しく、軽蔑される立場にあった。

 そして戦後70年以上たってなおヘイトスピーチという形で差別意識をあらわにする。愚かなことだ。やはり日本人は反省心が足りないのではないか。戦争だったからという一言で済ませてしまう。排外主義の極右が台頭してきたら時代は危うい。他民族の征服、戦争に行き着く。そして自らが破滅する。その典型が私たち日本であったはずだ。

 この先、日本の人口は減り、社会も経済も立ちゆかなくなる。移民を受け入れる時代がやってくる。そういうときに「出て行け」なんてとんでもないことだ。

さいとう・ふみお 1928年生まれ。県議を経て86年から98年まで参院議員。県日韓親善協会会長、県・川崎市観光協会会長、川崎港振興協会会長など歴任。


たなか・かずのり 1949年生まれ。川崎市議、県議を経て96年から衆院議員。現在7期目。川崎市日韓親善協会副会長も務める
たなか・かずのり 1949年生まれ。川崎市議、県議を経て96年から衆院議員。現在7期目。川崎市日韓親善協会副会長も務める


事前規制は党とも一致 自民党国際局長/田中和徳氏
 ヘイトスピーチは国として、日本人として恥ずべきことだ。絶対になくしていかなければいけない。これは明白なことだ。

 自民党と公明党が提案者となったヘイトスピーチ解消法が昨年6月に施行された。罰則はないが、ヘイトスピーチは法に触れる違法行為だ。表現の自由で守られる言動との線引きの難しさはある。だがこの間、司法、立法、行政がそろってヘイトスピーチは許されない、表現の自由の乱用だと判断を示している。もはや意見の対立はない。あとは自治体がこの法律を根拠に具体的な対策をどう取っていくか、だ。

 川崎市が取り組む事前防止のガイドライン策定と条例作りは大賛成。自民党本部の考えと差異はなく、まったく一致している。公園など公共施設を使い、公衆の面前でヘイトスピーチを行うことなど認めてはならない。

 この問題を巡り川崎市は象徴的な街となった。ヘイトデモが繰り返され、一方で市民の反対運動も盛り上がった。福田紀彦市長と市議会も反ヘイトでそろっていた。私が知る限り、川崎で市の取り組みに異を唱える者は誰もいない。市議会は市長と協力し、行政と一体になって二度と起きない方策を練り、対処できるよう備えておいてほしい。

 さらには全国の自治体が足並みをそろえていってほしい。それが立法者としての思いだ。

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