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獄中48年、日常の輝き 袴田さん記録映画「夢の間の世の中」

社会 | 神奈川新聞 | 2016年5月31日(火) 09:30

映画の一場面。自宅でくつろぐ袴田さんと秀子さん ((C)Kimoon Film)
映画の一場面。自宅でくつろぐ袴田さんと秀子さん ((C)Kimoon Film)

 1966年の一家4人殺害事件で死刑判決確定後、2014年3月の再審開始決定で釈放された元プロボクサー袴田巌さん(80)の静かな日常を追ったドキュメンタリー映画「夢の間(ま)の世の中」が6月4日から、厚木市内で上映される。獄中生活48年の後遺症が影を落としながらも、少しずつ生気を取り戻していく姿が描かれている。
 

自分の「世界」

 
 「事件の経過や真相究明よりも、袴田さんが釈放後、どのように生きていくのかに関心があった」。金(キム)聖雄(ソンウン)監督(52)は14年5月から1年余、延べ70日間にわたって寄り添った。撮影時間は200時間に及び、119分にまとめた。袴田さんの獄中での心境がうかがえる日記や書簡が随所に挿入されている。

 撮影開始から間もないころ、袴田さんの足取りはおぼつかなかった。何かにおびえているようにも見えた。故郷・静岡県浜松市にある、姉の秀子さん(83)の自宅で暮らし始めると、室内の決まったコースをひたすら歩き続けた。拘置所にいたころからの習慣らしく、来客中でもお構いなし。体力をつけるためというが、修行僧のような姿は異様に映る。

 自らを警視総監などの権力者に仕立て、「冤罪(えんざい)も死刑制度もなくした」と話すことも多かった。秀子さんは「死刑判決が確定する(1980年)まではしっかりしていた。その後、自分の世界を作ってしまった」と述懐する。

 スクリーンは、82年5月19日の獄中日記に切り替わる。

〈死刑判決は実に驚くべきことをします。先(ま)ず第一にわれわれの顔を家畜化します。そして目を閉ざします。普通の人から見れば、恐らく死刑囚は過去の者です。社会人がとうていのり越えることができない暗い時間というべき生の放棄、その血も止まる恐るべき空気が、死刑囚と娑婆(しゃば)の人の間にただよっています〉

 支離滅裂、妄想…。袴田さんの言動からは、長年の拘束で精神が病んだ様子がうかがえた。「果たしてそうか」と金監督は異を唱える。「毎日、死刑執行の恐怖にさいなまれ、無実の主張も通らない。自分の世界を作り上げなくては生きていけなかったのではないか」


 

姉「私の人生」

 
 ふかふかの布団の上で寝る、好物のあんパンを食べたいときに食べる、親戚の子の赤ちゃんを抱っこする…。映画は、日々の暮らしを丹念に追う。48年ぶりに手にした自由。何げない日常がいかにありがたいものなのか。奪われた時間の重さが、ひしひしと伝わってくる。次第に表情が柔らかくなっていく姿が映し出されていく。

 袴田さんの身の回りの世話を一手に引き受ける秀子さんは、獄中の弟の支援に奔走してきた。死刑判決確定後、精神が不安定になった袴田さんから面会を拒否されることもあった。独り身で働き続け、弟と住むためのマンションも購入した。帰ってくる日を待ち望んでいた。

 「昔は冤罪がたくさんあって、みんな泣き寝入りしていたと思う。うちは、そうはいくかよ、と」。力強く語る「肝っ玉姉さん」はしかし、自分の人生の大半を弟にささげてきた「献身的な姉」という世間のイメージと実情は異なるという。

 「殺人犯」の家族として生きざるを得なかったこと、再審開始までの長い道のり…。苦悩の深さは想像を絶する。金監督の取材にはこう答えたという。「恨みつらみを言っても仕方がない。自分自身が選択して歩んできた人生。弟を支えていることもその一つ。私は私の人生を歩んできた」

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