
「現実じゃない気がして悲しみもないよ」。ぺしゃんこになったわが家に視線を落とし、熊本県益城町の会社員松本陽一さん(58)がこぼす。避難所で暮らすが、「毎日、仕事帰りに見に来ちゃうんだ」。
亡き父が残してくれた木造2階建て。最初に震度7を記録した4月14日の「前震」で傾き、2度目となった16日の「本震」で1階がつぶれた。「前震後に避難していなかったら即死だった」
辛うじて命をつないだからといって、喜びに浸ることはない。「1カ月たっても心境は変わらない。心は空っぽのままだ」
家が建てられたのは「30年ぐらい前」と記憶しているが、現行の新耐震基準か1981年5月以前の旧耐震基準かは分からない。少なくとも「耐震改修はしていないし、そんな方法は知らなかった」という。
以前は藤沢市に住んでいた松本さんは今、途方に暮れる。「熊本は地震が少なく油断していた。こんなことになるなんて」