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【連載】帰還を思う(下)楢葉 「70歳まで現役」決意

社会 | 神奈川新聞 | 2016年5月16日(月) 11:46

 2月下旬、福島県楢葉町の自宅の一室。工務店を営む猪狩安正さん(66)=同町山田岡=は床にあおむけになり、ゆがんだ表情を浮かべながら、うめくような声を上げた。約7~8年前から続ける整体師によるマッサージ。齢を重ねた体は節々が悲鳴を上げ、右腕や左足の古傷もうずく。「体をいじめるようだよ。この年になって」と漏らす。

 食事時になると、酒に手が伸びる。テレビと机が置かれた6畳ほどの和室で、タッパーに入ったおかずを箸でつつく。

 もともとは妻の文子さん(65)、4月に亡くなった母親のトモさん=享年(91)=と3人暮らし。今は町内の住宅再建のために自宅で1人、生活している。トモさんが体調を崩し、いわき市でデイケアサービスを受けていたため、2人を避難先のいわき市に残してきたのだ。デイケアは町内でも受けられるが、「慣れた場所の方が良いのでは」と判断した。おかずは文子さんが作り、定期的に届けている。

 少量だが、酒もたばこも以前より増えた。「少しでも前の楢葉町に戻ってほしい」。顔を赤らめ、そう口にした。そう思えばこそ、耐えられる。


「やるしかないべ」と話す猪狩さん=楢葉町山田岡
「やるしかないべ」と話す猪狩さん=楢葉町山田岡

工務店を再開



 楢葉町は県東部に位置する。ほぼ全域が東京電力福島第1原発から20キロ圏内で、原発事故後は立ち入り禁止の警戒区域に指定された。2012年8月の区域再編で日中などの立ち入りが許される避難指示解除準備区域(年間積算線量20ミリシーベルト以下)となり、昨年9月に解除された。

 避難指示区域の解除は県内では田村市都路地区東部、川内村東部に次いで、3地区目。全町避難の自治体としては初めてとなった。

 今年3月で解除から半年となり、4月28日時点で287世帯約503人が生活しているが、町人口の約6%にとどまる。生活基盤が整備されていないことなどが障壁となっている。今後の町民の帰還の見通しは不透明だ。

 復興庁などが1月に町内の全世帯に当たる3548世帯を対象に実施した、帰還などに関する意向調査の結果もこのことを裏付ける。約6割に当たる1989世帯から回答を得ており、今後の住まいに関しては、「早期に戻る」「条件が整えば戻る」としたのは全体の約4割だった。


東京電力福島第1原発の周辺20キロ圏
東京電力福島第1原発の周辺20キロ圏


 一方、「町には戻らない」としたのは29歳以下の約6割、30~39歳と40~49歳は4割で、若い世代ほど目立つ。理由について町復興推進課は「町内での学校再開のめどが17年度であること、原発の安全性に対する不安、医療・福祉・介護施設の再開が不十分であることなどが挙がっている」と説明する。

 地元出身の猪狩さんは大工だった叔父に憧れこの道に進んだ。修業を積み30代で工務店を開業すると、町内の家々を手掛けてきた。

 原発事故後の避難生活では、町内のスポーツ施設Jヴィレッジ、福島県内の二本松市、塙町を転々とした。11年5月にいわき市の借り上げ住宅に落ち着くまでは、仕事から遠ざかっていた。

 同市内には同郷の避難者も多かった。依頼もあり、同市で住宅再建に取り組んだ。その後、屋根の補修や、水漏れで傷んだ廊下の修繕といった楢葉町内の住宅リフォームを手掛けた。借り上げ住宅と約20キロ離れた自宅近くの作業場の行き来は、除染作業員や家屋の解体業者らの車両で道路が混み合い、通常の倍以上の時間がかかった。体力的な負担を支えたのは、町を思う気持ちだった。

 新築も手掛けており、この先、複数棟の予約が入っている。避難指示解除準備区域解除前の昨春、町に届け出て1人自宅に戻り、仕事の拠点を楢葉町に戻した。

故郷への思い



 町内には今年に入り、内科・整形外科が設置された県立診療所が開設されるなど、生活基盤の再生に向けた動きがある。「気持ちの面では安心する。いろいろ再開してもらわないと」と猪狩さんも手応えを感じる。

 町が策定した町土地利用計画アクションプランなどによると、町の復興拠点として生活機能を集約した「コンパクトタウン」を整備するとしている。歩いて暮らせる集約型まちづくりなどの四つを基本方針として掲げており、敷地総面積は約23ヘクタール。帰還した町民や長期避難者らのための住宅地、商業・交流施設、医療福祉施設などの区域に分けられる。商業施設は16年度末の開業を目指している。

 県立診療所の開設はコンパクトタウン事業の一環。猪狩さんは「今は何もない。生活のための施設がないと、(避難者も)戻って来られない」と感じている。

 2月には災害公営住宅の敷地造成工事が始まった。同プランの一環で町内のJR常磐線竜田駅東側の整備も予定される。廃炉関連企業の事業所のための用地確保や企業誘致、誘致に伴う就業者向けの居住施設も設けたい考えだ。


自宅で一人で生活する猪狩さん(奥)=楢葉町山田岡
自宅で一人で生活する猪狩さん(奥)=楢葉町山田岡


 ただ猪狩さんの自宅周辺では取り壊された住宅も多い。「町民がどれだけ戻ってくるのか。子どもを持つ世代は戻らないのではないか」-。

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