
日本の「表現の自由」を調査するため、国連特別報告者のデービッド・ケイ氏が今月、来日した。「表現の自由」について日本が国連の調査を受けるのは初めて。約1週間の滞在後、ケイ氏は都内で記者会見を行い、「日本は表現の自由を明確に保護した憲法があるが、報道の独立性は重大な脅威に直面している」と警告した。背景に何があるのか。
国連特別報告者である私は、国連人権理事会から任命を受け、独立して世界各国の「表現の自由」の状況を調査しています。各国政府とは年間300~400回ほど話をします。ただ、年間に訪問できる国は限られており、政府からの招待がなければ調査できません。今年は3月にタジキスタンを訪れ、11月にトルコを訪問する予定です。メディアの状況はそれぞれの国によって全く違います。
異常
日本の「表現の自由」について大変興味がありました。特に(2014年12月に施行された)特定秘密保護法の実施状況を調べたいと思っていました。それ以外にも訪日する確固たる理由があると考えました。
滞在中、政府内外、多様な情報源から話を聞くことができました。外務省、法務省、総務省、文部科学省、最高裁判所、警察庁、海上保安庁など各省庁の方々、弁護士やジャーナリスト、学術界の皆さんにも会うことができました。
調査で明らかになった事実があります。日本では表現、言論の自由が強く約束されているということです。憲法21条には「集会、結社および言論、出版その他一切の表現の自由はこれを保障する。検閲はこれをしてはならない」と書かれています。日本はあらゆる情報を尊び、伝える権利を有することを徹底しようとしています。
にもかかわらず、報道の独立性は重大な脅威に直面しています。面会した多くのジャーナリストが「匿名でなければ話ができない」と言いました。このこと自体、異常です。日本のジャーナリズムは深刻な問題を抱えています。
時間を割いて話したいと思います。
規制
初めに、放送メディアについて話します。
高市早苗総務相が「放送局が政治的公平性を欠く放送法違反を繰り返した場合、電波法に基づき電波停止を命じることもあり得る」と言及したことは、各省庁の関係者から確認できました。
放送法4条は、放送番組の編集などについて以下のように規定しています。(1)公安および善良な風俗を害しないこと(2)政治的に公平であること(3)報道は事実をまげないですること(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
高市総務相は、同4条(2)の「政治的公平性」を根拠に発言したわけですが、問題は「だれが、政治的公平性を判断するのか」という点です。
政府は判断する立場にはないし、判断するべきではないと私は考えます。政治的に公平か否かは、社会の中で幅広く議論する必要があると思います。
日本にはすでに、第三者機関である「放送倫理・番組向上機構(BPO)」が存在します。言論・表現の自由の確保や放送による人権侵害の被害救済などを目的にしたBPOは、放送事業者が放送法違反をしていないかを調査する責任があります。
そもそも、同4条は放送事業者が自らに課した「倫理規定」です。それを、政府は「法律に規定されているのだから、政府が違反していないか否かを判断できる」と解釈したのです。こういった解釈ができる余地を残していることが問題です。
放送メディアの記者たちは同4条に対して「脅威である」「メディアが力を行使することができなくなる」と恐れていました。
私は、同4条を廃止し、政府はメディア規制から手を引くべきだと考えます。
団結
(新聞や出版などの)活字メディアも政府を批判する記事の掲載が難しくなっています。
「政府を批判する記事を書いたところ、掲載が見送られた」「書いた記者は降職させられた」と、多くの記者が口にしました。「東京電力福島第1原発事故や従軍慰安婦といった歴史問題など、政府にとって都合の悪い記事については、販売店が掲載に難色を示す」と。
新聞社の経営幹部が政府要人と会っているという話は、何度も聞きました。