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野毛大道芸30年(下) 清濁の街「本物」育む

社会 | 神奈川新聞 | 2016年4月22日(金) 11:14

野毛小路でポーズを決めるHi2さん。あこがれの野毛大道芸に、今年初出演する
野毛小路でポーズを決めるHi2さん。あこがれの野毛大道芸に、今年初出演する

 いかがわしい街はきっと大道芸と相性がよかった。何でもござれ。何でも笑え。同じ阿呆(あほう)なら踊れ。そして飲めと。

 例年の総動員数は10万人を超える。天候など条件がそろえば、通りはパンク状態になる。「少し見にくいかもしれないけど、私たちはステージはつくらない。芸人、スタッフ、お客さんが三位一体となって、同じ高さでやる。それが野毛大道芸」。芸人の手配や世話などに駆け回る裏方の大ベテラン、大久保文香(75)の口調は誇らしげだ。



 25歳のHi2(ヒッツ)にとって野毛大道芸はあこがれだった。3年前に見に来て、感動した。「何だか花火大会のような雰囲気だった。家族連れが多く、みんなわくわくしていて。地域に根付いたフェスだなと」。今年、初出場する。

 日本三大大道芸フェスティバルに数えられ、国内2番目の歴史を誇る。街の酔っぱらいの思いつきで始まったお祭りは、大道芸そのものの存在も変えてきた。

 発案者の一人、森直実(67)は「そんなおこがましいものでは」と前置きしつつ、時代の変化を語る。例えば森が審査員を務める、東京都が芸人を登録して支援する「ヘブンアーティスト」という制度だ。

 「東京都が芸人を公認する時代。そんなの昔は考えられなかった。日本での芸人はアウトローで社会的地位も低く、どこかいかがわしさが伴っていた。今はもう市民に受け入れられている。最近は最初から『大道芸人になりたい』っていう若者がいるんだから」

 最初はマジシャンを目指していたHi2も、ヘブンアーティストの一人だ。芸の幅を広げていた時に路上のパフォーマンスに誘われ、今では名刺にしっかりと「大道芸人」と書いている。

 野毛大道芸は当初、資金がなくて芸人にギャラを払えず、投げ銭に任せていた。当意即妙のやりとりが芸人を鍛え、その繰り返しが投げ銭の文化を根付かせた。見る側の目も肥えさせ、大道芸との距離を縮めた。「あまり大きい声では言えませんが、野毛の観客は金払いがいいと芸人仲間では有名です」とHi2。有形無形、野毛が大道芸のあり方を変える素地をつくってきたのは間違いない。



 30年の歴史は、「本物」を日本に伝える歩みでもあった。本場ヨーロッパを筆頭に中国雑技団、カナダ、アメリカ、そして韓国やインドなど。招待や交渉に当たった大久保が振り返る。

 「それぞれの芸の発祥の国、そして世界最高峰の芸人を呼んできた。大道芸と言えば、がまの油売りに代表される物売りが中心だった日本では、初めて見る芸も多かったはず」

 今では誰もが知っているジャグリングは当初、野毛では「西洋風複雑お手玉」と名付けていた。「日本の芸人がそれを採り入れ、徐々に広まった。種まきをしたのは野毛だと思う」

 そのゲストの中に、フランス人のクリスチャン・タゲ(66)がいる。家族的な世襲がほとんどだった欧州のサーカス界において、シルク・ドゥ・ソレイユに代表される芸術性の高い「新しいサーカス」を築き上げた一人。森が「その世界で知らない人はいない」という大御所だ。

 タゲは野毛をひどく愛し、弟子を連れてたびたび来日する。「母国ではすごく偉くて指導する立場の人なのに、なぜか野毛では必ずステージをやるの」と大久保。しかも足には地下足袋だ。「綱渡りをやるときに、指の部分が割れている足袋の具合がいいみたいで」。今年も準備万端だ。

 本場フランスへ渡ったのは、日本伝統の履物だけではない。「タゲさんは欧州全体に顔が利く。本場で芸を学びたい人、自分を試してみたい人がその縁を頼って、外に出て行く。タゲさんは日本の芸人の架け橋になっている」。そしてまた、日本の大道芸が盛り上がる。「NOGE」の名が世界に広まっていく。

 ただ「本物」の中には、日本の常識では計れないパフォーマンスもあった。公衆の面前では披露が難しく、他では断られてしまう芸があった。野毛ではゴーサインが出た。大久保が笑う。「警察も行政も、どこかで『野毛なら仕方ない』と思ってもらえるような部分があるからでしょうね」

 かつて前夜祭として行っていた大道芝居には、横浜市長も引っ張り出していた。調子に乗った芸人が道路を走る市営バスを止め、綱で引っ張るパントマイムを始めたこともあった。それに付き合う運転手もいるのが、何とも野毛的だ。



 戦後の闇市に始まり、今もなお清濁併せのむ街。今年久々に登場するパントマイムのベテラン、ヘルシー松田(64)はその舞台をこんなふうに表現する。

 「野毛の街が大きなテントで覆われたら、そのまんまサーカス小屋になるんじゃないですか。だから、僕らはやりやすいんですよ」

 怪しげな中華料理屋があって、うまいやきとり屋があって、看板のないフライ屋があって、渋いバーがあって、日本最古のジャズ喫茶があって、くじらを食べさせる店があって、ゲイバーがあって、ストリップがあって、風俗店があって。

 街を思う人がいて、偏屈がいて、頑固者がいて、だからケンカする人もいて、

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