基地を抱える自治体で、ご当地キャラクターの運用はまちまちだ。自衛官姿の「ざまりん」を歓迎し、武装化さえも肯定的な座間市と、騒音を被る住民に配慮し、「ヤマトン」の背景に描かれた飛行機に過敏に反応した大和市。協調と自制-。それぞれのキャラの処遇に、基地との距離感が投影されている。
「これは、まずいだろ」。2月に陸上自衛隊座間駐屯地を視察した相模原市の金子豊貴男市議は、机上に並んだ封筒の挿絵に眉をひそめた。座間市のキャラ「ざまりん」が迷彩服をまとい、小銃を携えている。「ひまわりの妖精」の、いかつい風貌に驚いた。
駐屯地司令業務室はこの日、相模原市米軍基地返還促進等市民協議会(会長・加山俊夫市長)の視察に応え、資料を閉じて何げなく提供したのがこの封筒だった。
ただ、武装の是非以前に、ざまりんを勝手に改変した挿絵の無断使用が判明。大小計1500枚の封筒にイラストを印刷し終えていたが、100枚ほどを配布後、納品から1カ月足らずで“お蔵入り”となった。
司令業務室は武装について「陸自の通常装備で問題ない」としながら、「さまざまな市民感情に対する配慮が足りなかった」と釈明。これまで迷彩服姿のざまりんは、敬礼ポーズと四輪駆動車を運転する仕様が市に承認されており、武装化は「その延長」との認識だった。
自衛隊は敵か?
武装の是非をめぐる論戦は、座間市議会に飛び火。3月の定例会で市議から「妖精の子どもに銃を持たせるのはいかがなものか」と問いただされると、遠藤三紀夫市長はこう切り出し、不快感をあらわにした。「自衛隊は敵なんですか」
承認の可否について、遠藤市長は「正式な打診があれば、その時点で判断する」と答えたが、武装は「自衛隊の正式装備を持っているだけだ」と一貫して擁護に回った。反論は国防論に発展。「平和を希求する以上、武器を持たずに対応できるならそれに越したことはない。しかし、崇高なる使命感を持った自衛官は現実的な任務を果たしている」と言い切った。
市は要領で、ざまりんの改変イラストを使用した商品化を原則的に禁止するものの、駐屯地内で販売されている迷彩服姿の商品は容認している。遠藤市長は、自衛隊仕様に着せ替えできるキャラが、ざまりんと熊本県の「くまモン」に限られると誇らしげだ。
一方で駐屯地北側の相模原市は、公式キャラ「さがみん」の変形や改変をそもそも認めていない。座間市は、市議から商品化が「要領に反する」と指摘されながら、3月に規定を緩和した。一部の市議は「堂々と陸自に肩入れするためのアリバイづくりだ」といぶかる。
イメージが命綱
“同志”とされたくまモンはなぜ、迷彩服姿が採用されているのか。座間市の騒動を注視していた熊本県の担当者は、きっぱりと答えた。「自衛隊だから許可したわけではありませんよ」
熊本県は国の行政機関を含め、特定の団体や職種を想起させる制服の着用を禁止しているが、県内に出先のある機関に限って許容している。熊本市に陸自西部方面隊やその配下組織が所在することから、県のPRになると判断した。環境省が水俣市に置く研究所の制服姿も、職員の名刺の挿絵として承認しているという。
ただ、武装化は「認められない」と担当者は断言する。理由は単純だ。「子どもは武器を持ちませんよね」。ざまりんと同じ11年に誕生した「男の子」のくまモンは、ピークの13年度に約7500件の使用申請があった全国屈指の人気者。翌年度に審査を民間に委託してからも、県がとりわけ固持する規律がある。「特定の組織におもねらず、イメージを壊さないことです」
騒音訴訟に配慮
基地に親和的なざまりんと対照的に、基地が所在するゆえに憂き目をみたキャラが間近にいる。大和市の“森の妖精”ヤマトンだ。
大和駅前の市イベント観光協会にある今年のカレンダーは、ヤマトンのイラストの背景が不自然に継ぎ当てられている。職員がぽつり。「表には出せないんです」
そこに描かれていたのは、飛行機だった。深緑色の機体と機首のプロペラ。旧日本海軍のゼロ戦(零式艦上戦闘機)に見える-。印刷後に市内部から違和感が持ち上がり、露出に待ったがかかった。
市域は、日米が共同使用する厚木基地が立地し、住民らは40年前から航空機騒音の解消を目指して訴訟を起こし続けている。15年7月に東京高裁の控訴審判決で初めて自衛隊機の夜間・早朝の飛行差し止めが認められたが、最大の発生源である米軍機の差し止めを求め、約7千人の原告団はなおも第4次訴訟を争う。
ゼロ戦に酷似したのは「偶然」(市イベント観光課)だったものの、こうした市民感情に配慮し、最終的に大木哲市長の判断で直後に配布を取りやめた。印刷された大小3200枚は制作に20万円余りを要したが、ほぼ廃棄された。
「捨てるのも、もったいないですから…」。観光協会は飛行機のイラストを覆い隠し、カレンダーを使い続けている。
自治体公式は配慮を
犬山 秋彦さん 元陸自自衛官・ご当地キャラ研究家
基地に関わるキャラクターの運用について、元陸自自衛官でご当地キャラ研究家の犬山秋彦さん(39)に考えを聞いた。
自治体のPRを担うご当地キャラは認知度向上のため、露出を宿命づけられている。さまざまな格好やパターンによって、ファンの関心を集めようと努めるのは自然だ。小銃を持たせるのも、著作権者の座間市が承認するのであれば、手続き的に何ら問題はない。
ただし、自治体の公式キャラは企業や特定の思想・主義を持つ団体のキャラと性質が全く異なる。市民に愛されたみんなのもので、キャラの仕様は常に市民感情に配慮すべきだ。
ご当地キャラの目的は、地域貢献にある。何をもって「貢献」となるかは人それぞれで、基地や駐屯地の存在がメリットにもなれば、その逆もあり得る。武装化で座間市のイメージ悪化を心配する市民がいるのは当然だ。
一方で大和市の自主規制は、市民からの苦情のリスクを事前に摘んだ結果だろう。キャラの管理者は、ブランディングとともにリスクマネジメントが大切だ。