
東京湾、相模湾に面する県内15市町のうち、茅ケ崎市と真鶴町が津波警報・注意報発表時の避難勧告・指示の具体的な基準を設けていないことが、神奈川新聞社の調査で分かった。国は注意報以上で避難指示を出すよう促しているが、基準のある市町も判断の根拠や発令する情報の内容はそろっていない。海沿いの住民にどう避難を促すかは、東日本大震災から5年を経た今も課題のままだ。
国は震災などを受けて2014年9月に改定した避難勧告のガイドラインで、津波が予想された場合について「できるだけ早く、高い場所へ移動する立ち退き避難が原則」と規定。そのためには避難勧告でなく、より重大な事態を意味する避難指示を注意報段階から発令するよう、基準の設定を市町村に促している。状況判断に迷い、発令のタイミングが遅れないようにするためだ。
このガイドラインも参考に県内の沿岸市町は基準作りを進めてきたが、茅ケ崎市と真鶴町が今年2月時点で設定に至っていない。茅ケ崎市は「津波ハザードマップの見直しに合わせ、なるべく早く基準を設ける」と説明。真鶴町は「16年度に定める予定」だ。
既に策定済みの市町も、基準はばらついている。東京湾側では、川崎市が最大級の津波が押し寄せてきた場合に想定される浸水の深さに応じて指示と勧告の対象区域を分けるのに対し、横浜市は浸水想定域全体に避難指示を出す。
相模湾沿いの中でも津波のリスクが高いとされる鎌倉市は原則として市内全域に勧告か指示を発表。平塚市や小田原市は沿岸部の避難対象区域に発令するとの基準は同じだが、平塚市は大津波警報で勧告を、小田原市は津波警報から指示を出すことにしている。
こうした独自基準の自治体が多いため、国のガイドラインに沿う形で注意報段階から避難指示を出す方針を明確にしているのは、現在のところ藤沢、三浦両市と湯河原町にとどまる。他市町には「注意報レベルの津波では浸水する可能性はほぼない。そうした状況で避難指示を出すのは現実的でない」といった見方もあり、平塚市のように「今後、ガイドラインに沿った基準に見直す」との意向を示す自治体は少ないのが現状だ。
また、避難勧告と指示で切迫感の違いをどのように伝えるかも課題となっている。「勧告の場合は『ただちに避難』、指示では『至急避難』と言葉を使い分ける」(葉山町)手法があるほか、サイレンの鳴らし方などで変化を付ける自治体が多いものの、「防災無線で呼び掛ける際の言葉は大きくは変わらない。住民に違いを理解してもらうのは難しいかもしれない」との指摘も出ている。