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サッカー少年 抱く夢
縁のものがたり@アンプティーボーイ<下>

社会 | 神奈川新聞 | 2016年3月2日(水) 15:16

楽しそうにドリブルをする賢くん(鳥飼さん撮影の「amputee boy-けんちゃん-」から)
楽しそうにドリブルをする賢くん(鳥飼さん撮影の「amputee boy-けんちゃん-」から)

楽しそうにドリブルをする賢くん(鳥飼さん撮影の「amputee boy-けんちゃん-」から)
楽しそうにドリブルをする賢くん(鳥飼さん撮影の「amputee boy-けんちゃん-」から)

 今年1月、初めてPKを決めた。同点に終わった練習試合。キッカーの順番をどうするか話し合っていると、石井賢くん(9)=川崎市=が自分で手を挙げた。

 アンプティーサッカーは片足を失った人がフィールドプレーヤー、片手を失った人がキーパーを務める。相手は大人。しかもボールは中学生以上が使う5号球だ。シュートは確かな威力を持って、ゴールネットに突き刺さった。まさに、「大人顔負け」だった。この試合のMVPに選ばれた。

 「なんでしょうね。自信が出てきたのか、やる気が出てきたのか」。母の督子(よしこ)さん(45)は、声援にガッツポーズで応えた息子に、成長と変化を感じ取っていた。

 アンプティーサッカーを知った当初、興味を示した息子を喜ぶとともに、心配があった。優しく接してくれるアウボラーダ川崎も、いわば「大人のチーム」。クラッチ(つえ)を使った障害者サッカーとはいえ、接触プレーに遠慮はなく、派手な転倒は日常茶飯事だ。小学生の息子がけがをしないか。プレーに追いつけず、つまらなくなってしまうのではないか。

 杞憂(きゆう)だった。賢くんは「あのサッカーがしたい」ではなく「あの人たちとサッカーがやりたい」と言った。何よりその顔が生き生きとしていた。「足りないのは私の、大人の勇気だったんです」

 賢くんは、学校の友達に交ざって普通のサッカーだってできる。「でもアンプティーの方がいい。大人とやるのが面白い」と笑う。チームの運営や練習の手伝いにも関わるようになった督子さんは今、その理由がよくわかる。

 「初めて会った時から、旧知の仲間みたいに賢を受け入れてくれた。あの人たちは、何も言わなくても賢の気持ちがわかるんだなって。本人はそれを言葉にはできないけど、子どもながらに感じている部分があるのかもしれない」

 チームのエースで、ブラジル出身の日系3世・エンヒッキ松茂良さん(26)は、日本にこのサッカーを広めた伝道師だ。日本代表でも常に背番号10を背負い、一人別次元のプレーを見せる。5歳の時に交通事故で足を失い、ブラジル代表にもなったテクニシャンはこともなげに言うのだ。

 「別に片足がないからってできないプレーはない。オーバーヘッドだってやるし、無回転フリーキックだって打てる。今から賢が一生懸命練習すれば、未来の日本代表ですよ」

 ピッチで輝いているのは「できない」を嘆くのではなく、「できる」に変える努力をする彼らだった。熱くて明るくて仲間思い。どこにでもいるサッカー好きたちはそれでも、底抜けに優しかった。

 賢くんを追い掛けるカメラマン・鳥飼祥恵(さちえ)さん(33)は、自然とチームメートも撮るようになった。今や「チームスタッフ」を自認する自身のファインダーにも、いつの間にか変化があったことに気づいた。

 「最初はやっぱり、足に目が行っていたんですよ。

 
 

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