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社会構造に根強い問題

社会 | 神奈川新聞 | 2016年2月28日(日) 10:27

「非正規職シングル女性」のニーズ調査報告会には約60人が参加した=横浜市戸塚区
「非正規職シングル女性」のニーズ調査報告会には約60人が参加した=横浜市戸塚区

 35歳から54歳までの未婚で、非正規雇用で働く女性を対象にした「非正規職シングル女性の社会的支援に向けたニーズ調査」の概要がまとまった。男女共同参画センター横浜(横浜市戸塚区)で行われた報告会では、調査に参加した女性たちが生活の不安や孤立感を抱えていることや、男性が稼ぎ主として家庭を支えることを前提にした社会制度の矛盾、「未婚の女性」に対する冷たいまなざしなど、さまざまな問題点が浮かび上がった。 

 〈派遣雇用で収入が安定せず、税金や家賃などで全くゆとりがない。体調を崩したら医療費も出せず、生活が立ちゆかなくなる不安がある〉

 〈外資系の契約期間は通常1カ月で、「今度は長期で」と言われたら、2カ月だった〉

 〈年齢も上がっているのに、独身、子どもなしだと非国民だと思われる〉

 調査に参加した女性の回答には、困窮する生活や社会から感じる視線に対する切迫した言葉が並ぶ。

 調査は、横浜市男女共同参画推進協会(横浜協会)を中心に、大阪市男女共同参画のまち創生協会(大阪協会)、福岡女子大学の野依智子教授が共同で行った。対象は横浜、大阪、福岡各市を中心とする都市に住み、非正規職で働く35~54歳で子どものいない未婚女性。インターネットで実施したアンケート調査には279件の回答(うち有効回答数は261件)があり、3都市で計22人が仕事や生活の現状などを話すグループインタビューに参加した。


メカニズム

 回答者に共通していたのは、雇用の不安定さと低い収入だ。

 現在の仕事の雇用契約期間で最も多かったのは、「1~3年未満」の30・3%。週当たりの労働時間は、「40時間以上」が37・5%、「30~40時間未満」が35・6%と、多くが非正規とはいえフルタイムに近い働き方をしている。

 その一方で、年収は「150万円以上250万円未満」が39・8%を占める。さらに、年齢が上がるほど年収は下がっており、45~54歳では3人に1人が年収150万円以下だった。

 また、非正規職に就いている理由(複数回答)は、61・7%が「正社員として働ける会社がなかった」と回答。「女性は望んで非正規職を選んでいる」と思われがちだが、必ずしもそうではないという結果が出た。

 横浜協会は「既婚女性のパート労働の割合が多いため、女性の『不本意非正規』が見えづらい。女性の就労に関わる支援や政策は『結婚・出産した女性』や『シングルマザー』などが対象で、そのどこにも当てはまらない非正規シングル女性には、全く支援がない」と指摘する。

 さらに根深い問題もある。社会構造という「見えない困難」だ。

 日本では、戦前から夫が家族を養うという発想による家族賃金があり、そこに社会保障制度もセットになっている。そのモデル通りに男性の稼ぎ主を持つ場合は、女性がパートなどの非正規雇用でも問題が顕在化することはなかった。

 横浜協会は「女性は親や夫によって、衣食住などの基礎的な生活条件が用意されるから、女性労働は補助的なものという考え方が根強い中で起きている問題なのではないか」とみる。調査に参加した野依教授も「『男性稼ぎ主』を前提とする賃金体系・雇用形態、社会保障制度。それを持たない女性は貧困につながる」というメカニズムを指摘する。


限定的選択

 総務省の調査では、男性の非正規雇用も上昇傾向にある。特に若年男性の非正規化が目立ち、それにより結婚できない男性が増える可能性もある。男女とも未婚化が進めば、社会構造の問題はさらに大きくなってくる。

 また、女性の場合、未婚であることで、家族や社会とあつれきが生まれることも少なくない。「結婚して、出産して、働いて」という画一的な女性像がメディアなどで取り上げられ、それに当てはまらないことで内外から心理的な圧迫を受けることもある。横浜でのグループインタビューに参加したという女性(42)は「性別は選べないのに、どうして女性だけが結婚しなければいけなくて、家事をしなければいけないのか。その視線が問題。個別に生きていく社会でなければならないのに、選択が限られていることがおかしい」と報告会で声を上げた。

 調査では「今後利用したいサポート」として、「仕事に必要なスキルアップの場」といった仕事に関係する内容のほか、「心身がリフレッシュできる場」「同じ立場の人との交流の場」などがあがった。それだけではなく、「一時的・部分的なサポートでは現状を変えることはできない」「アンケートの集計・分析にとどまらず、施策まで踏み込んでほしい」という意見もあった。

 「非正規職シングル女性」の困難は、社会構造や女性全体の問題と密接に関わっている。それだけに、即効性のある解決策が見当たらないのも事実だ。調査により、今まで見えなかった存在に光が当たったことを踏まえ、横浜協会は「今後はサポートの場や情報などの資源を当事者を中心とした形でつくり、伝えていくことに加え、社会的資源に向けた提言や発信もしていかなければならない」としている。



 調査の最終報告書は、3月に横浜市男女共同参画推進協会のホームページなどで公開される。

 
 

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