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ジャーナリスト綿井健陽さん
時代の正体〈263〉「放送人の意義見つめ直せ」

社会 | 神奈川新聞 | 2016年2月24日(水) 08:43

ジャーナリストの綿井健陽さん
ジャーナリストの綿井健陽さん

 放送局が「政治的公平性」を欠く放送法違反を繰り返した場合、電波法に基づき電波停止を命じる可能性について繰り返し言及した高市早苗総務相。だが、「政治的に公平かどうか」を判断すると言うのは、他ならぬ放送局に対して絶大な影響力を持つ総務相自身だ。ジャーナリストで映画監督でもある綿井健陽さん(44)は「放送メディアに対する脅しだ」と断じる。手にする強大な権力をちらつかせる為政者を前に、抗(あらが)う姿勢こそが攻撃の対象になっていることに、危機の本質がある。

 放送とは誰のものか-。普遍的な問いを綿井さんは投げかける。「高市総務相の発言は、放送がまるで政府の所有物かのような言いぶりだ。いろいろな解釈があるだろうが、少なくとも国家や政府のものではない」

 先の大戦で放送は大本営発表を流し続けプロパガンダの一翼を担った。その反省から放送法ができあがった経緯がある。

 放送法はその第1条に「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保する」と定める。

 「表現の自由」を掲げる一方、高市発言で言及された放送法4条は「放送番組の編集に当たっては」「政治的に公平であること」と明記する。

 では、違反すると行政処分の対象となるのか。少なくない専門家は、放送局が外からの強制を受けるのではなく、あくまで自らを律する「倫理規範」であると解釈している。なぜなら「政治的に公平かどうかを、政治家が判断するというのは独裁国家でしかあり得ない」からだ。

危機


 綿井さんは、こうした放送法の解釈以前に、現在のテレビ局に危機的状況を見いだしている。「自ら忖度(そんたく)し、無難で当たり障りのない放送を知らず知らずのうちにやっていく構図ができあがりつつあるのではないか」

 今夏には、参議院選挙が控える。安倍晋三首相はすでに、争点は「憲法改正」と口にしている。戦後政治の重大な転換点となりうる国政選挙を前に、高市総務相が電波停止の可能性に言及し、安倍首相も発言を肯定した。数日後に高市発言を追認する「政府統一見解」まで発表された。

 「個別の報道内容ではなく、放送メディア一般に対して『停波』の可能性を示し、統一基準を設けようとしている。もはや言論統制に近い。民主主義社会の否定と言っても過言ではない」

 綿井さんは憂い嘆き、憤る。

 「いま、放送局の現場がどれだけ声を出せるか。ストレートニュースで高市発言の経緯を伝えるだけでは全く足りない。キャスターが問題点について言及し、放送局としてスタンスを明確に示す必要がある」

反権力


 一方、テレビにいま問われるべきは「何をどう報じたかではなく、何を伝えなかったかだ」。放送の中に身を置くからこそ、肌で感じる危機。すでに萎縮や忖度は始まっている。

 安倍首相が衆院解散総選挙を明言した2014年11月、TBSの生放送番組に出演した首相は番組内の街頭インタビューに対し「選んでますね」「これおかしい」と発言。その2日後に自民党は在京テレビ6局に、選挙報道の公正中立を文書で要請した。

 綿井さんはその後、街頭の声を紹介するワイドショーや報道番組が減り、選挙の話題も少なくなっていったと感じる。

 「政権から放送局への直接の圧力というよりもむしろ、局の内部で『とりあえずバランスを取ろうよ』という声が上がることの方が問題だ。問題の重要性から判断するのではなく、抗議や批判をかわすためにバランスを取ろうとしている。話題にするのを避ける。そうした作用は知らず知らずのうちに習慣化する。自らどんどん跪(ひざまづ)いていく」

 負のスパイラルはすでに回り始めている。「あたかもそれが公平な放送だと、定着しつつあるのです」

 かつてはもっと自由だったと実感する。例えば04年3月。綿井さんはいまも覚えている。テレビ朝日の夜の報道番組ニュースステーションの終了間際に、キャスターの久米宏さんはこう言い放った。

 
 

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