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時代の正体〈262〉日本会議を追う(4) 望む考えネットで補強

社会 | 神奈川新聞 | 2016年2月19日(金) 07:00

1万人余りが詰めかけた日本武道館
1万人余りが詰めかけた日本武道館

 頑張ろう三唱の熱狂で幕を閉じた2015年11月10日の「今こそ憲法改正を!1万人大会」。日本武道館を出ると冷たい雨が落ちていた。人々は何を求めて集会に足を運んだのか。スマートフォンを無心でいじっている女性に声を掛ける。46歳、独身。大ぶりのつけまつげが印象的だった。

 「私は心配なの。この前、外国語学校の壁に大学合格者の一覧が張り出されていたのを見た。皆、中国人や台湾人。日本のエリート大学にその年だけでざっと500人も合格している」

 何が言いたいのだろう。その心配が憲法改正とどうつながるのかも見えない。女性は締め付けられた足先が痛むのか、高いヒールの靴で足踏みを繰り返す。
 「いろんな補助金をもらって勉強した中国人がこんなにエリート大学に入学したら、日本人が入学できない。フェアじゃない」

 補助金とは何のことだろう。聞けば、ある政治家が何億円も出し、外国人留学生を支援しているのだという。

 「ネットにそう書かれていた。日本の大学生は奨学金という借金を背負わされ、卒業したときには何百万円も返さなきゃいけない。不公平」

 中国人が失業保険や生活保護を不正受給し、豊かな生活をしているという不満も口にした。だが、日本人も不正受給をしているし、数を比較すれば日本人の方が圧倒的に多いはずだ。それでも女性は区役所の窓口に行けば中国人がたくさんいると主張する。そもそもどうやって中国人だと見分けているのかと尋ねると「そんなのは見れば分かる」。一方的に募らせた被害者意識が目を曇らせてはいまいか。


「今こそ憲法改正!1万人大会」で登壇者を見詰める参加者ら=2015年11月10日、日本武道館
「今こそ憲法改正!1万人大会」で登壇者を見詰める参加者ら=2015年11月10日、日本武道館


 女性は高校を卒業後、英国へ語学留学し、現地の韓国人留学生のグループからいじめられたのだという。「韓国人の方が人数が多く、みんなで寄ってたかって私の悪口を言った」。その記憶からくる韓国人への嫌悪がどうしてか、中国人にも向けられるようになっていったらしい。

虚実ない交ぜ


 「日本に来ても、彼らはわが物顔。ほら、これを見て」

 スマートフォンの画面には、ショッピングモールに置かれたソファで小太りな男性が寝ている写真が映しだされていた。

 「これ中国人。店の人もあきれていた。日本人は海外に行ったとき、こういうことはしない」

 そうとも言い切れない気がするが、黙っていると女性は続けた。

 「こんなことをほかの人に言ったらレイシスト(差別主義者)と思われる。分かっている。でも不安なの。銀座に行けばものすごい数の中国人や韓国人が歩いている。このままじゃ日本はおかしくなる。支配される。そう思わない? 私がおかしいのか」

 虚実ない交ぜのインターネット上の言説をうのみにし、考えを組み立て、その主張を補強する出所不明の情報をまたネットで検索する。目に触れるのは自分の考えに沿った情報だけ。そこに多様性はなく、視野はさらに狭まっていく。

 1万人大会はネットで開催を知り、1人で足を運んだという。

 居心地はよかっただろうか。

 吹き付ける霧雨をよそに女性は「私の話を聞いてよ」と繰り返し、話し続けた。右目のつけまつげが次第にはがれ、いまにも落ちそうになっていた。なぜ憲法改正を望むのか、はっきりした答えは最後まで聞けなかった。 

民主主義 窒息状態に



ジャーナリスト青木 理さん

 日本会議をはじめ右派組織の動向を追うジャーナリストの青木理さんに、その勢力拡大の背景を聞いた。



 -イベントを開催すると数千人規模の人が集まり、日本会議の存在感が増している。

 「催しには多くの国会議員が登壇するケースもある。発言は勇ましく、全体として元気がいい。だが目新しい主張があるわけではない。新しいスターが誕生したわけでもない。思想、信条を超えて評価すべき事はない。ただ懸命にソフトなイメージを演出している。それに社会や時代の方が吸い寄せられている、という印象を受ける」

 「日本会議を過大に評価したり、『陰で日本を動かしている』と謀略視したりする見方もあるが、実態がつかみがたい。ただ現実に閣僚の多くが議連に属し、国会議員や地方議員も数多く名を連ねており、政界への影響はあなどれない。現政権の主張と親和性が高いのは事実で、そうした勢力におもねった方が選挙や当選後のポスト獲得で有利に働くという思惑もあるだろう。その意味では政界が吸い寄せられているともいえる」

 -なぜいま、社会や政治が吸い寄せられているのか。

 「大きな流れをみるべきだろう。冷戦が終わり、国内政治やアジア情勢は激変した。中国や韓国が経済発展を遂げ、日本の国際的地位が相対的に低下した。2010年にはGDP(国内総生産)世界第2位の座を明け渡した。国内では左派勢力が退潮し、格差が拡大し、低成長の時代に不安感が広がる一方、先の戦争を知る世代も減っている。そうした中、先の戦争への悔悟は薄れ、いびつな愛国心が力を得て隣国に強硬な態度を取る風潮が広がっている。いわゆる嫌中・嫌韓本が流行したのも、テレビ番組で『日本はすごい』ともてはやすものが増えたのも同じ流れだ」

 「拉致問題の変化も大きな影響を及ぼした。2002年の日朝首脳会談で北朝鮮が日本人の拉致を認めた。朝鮮半島との関係で戦後初めて、日本が加害者から被害者となったことは、不健全なナショナリズムを燃え上がらせる契機になった。安倍首相もこれをきっかけに政界の階段を駆け上がっている」

 -そうしたナショナリズムはこの国をどこへ導くのか。

 「現政権やその周辺を眺める限り、基盤は盤石ではない。むしろ『ほかにいないから』という消極的支持理由が多いようだ」

 -では、それほど危機的状況ではない。

 「いや、決して楽観はできない。うっすらと排外主義や歴史修正主義に共感を抱いている人々の層は底辺で確実に拡大している。政治ばかりかメディアもそれをあおっている」

 「例えばこの先、自衛官が派遣先で戦死したり、国内で大規模なテロが起きたりすれば、メディアも世論も一色に染まる。そうしたとき『安倍政権の安全保障政策に問題があった』などと批判すれば国賊、売国奴、敵を利するなどと袋だたきに合いかねない。むしろ治安強化を求める感情論が高まり、特定秘密保護法などの悪法が本格駆動し、戦後民主主義は一挙に窒息状態に陥りかねない。盗聴法の強化や共謀罪の導入など、そのための土壌はどんどん整えられつつある」

=おわり
【連載】「日本会議を追う」は全4回。今回が最終回です。

 
 

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