「当球場は広域避難場所となっております ご安心下さい」
スタンドの観客から悲鳴が上がる中、不安をかき消すかのように横浜スタジアム(横浜市中区)のバックスクリーンにメッセージが表示された。
激しい揺れが襲ってきたのは、プロ野球・横浜ベイスターズとヤクルトスワローズのオープン戦の真っ最中。記者室で取材していたが、両軍のベンチにいた選手らとともに慌ててグラウンドへ。六回裏まで終了していた試合は打ち切られたものの、3700人余りの観客にけが人はなく、施設に大きな損傷はなかった。
だが、不安は解消されない。球場のそばに立つ2棟のビルが大きく揺れてぶつかりそうになるのが見え、バックスクリーンは押し寄せる巨大津波を上空から捉えたニュース映像に切り替わった。特撮映画の世界に立たされているような感覚を味わったことを今も覚えている。
ふと周囲に目をやると、仙台市出身の選手が家族を心配し、携帯から電話を何度も掛け直していた。「連絡取れないんですか」と声を掛けると、大学の先輩に当たるその選手はうなずき、「お前の家族は大丈夫か」と気遣ってくれた。後日、選手の家族が無事だったと聞き、安堵(あんど)した。
開幕の時期をめぐって賛否や曲折があり、シーズンは2週間遅れで4月12日に始まった。原発事故の影響で当初はデーゲーム。5月には開始時間を1時間前倒しての「節電ナイター」。異例のシーズンだったが、全力プレーで人々を勇気づけようとする選手の、そしてスポーツの力を感じながら取材を続けた。