
一年の締めくくりでもあった重要な会合後に発した言葉は、いつもと変わらなかった。「東海地震はいつ発生してもおかしくないと言われているが、地震に直接結び付くような現象は観測されていない」
昨年12月26日、東京・大手町の気象庁。夕刻、記者会見に臨んだ東大地震研究所の平田直教授は、静岡・駿河湾を中心に構築された特別な観測網が捉えた地殻変動について淡々と説明した。
「(数年ほど継続する)長期的ゆっくり滑りが想定震源域のさらに深いプレート(岩板)境界で起きることは定常的な現象。(数日から1週間ぐらい続く)短期的なゆっくり滑りもそれほど珍しくはない」。念を押すように言う。「現時点では、こうした現象が直ちに次の大きな地震に結び付くとは考えていない」
1976年に提唱された学説に基づき、切迫性が指摘されてきた東海地震。現実となれば駿河湾周辺を中心に強い揺れとなり、神奈川を含む沿岸各地に津波が押し寄せる。
死者9千人超と深刻な被害が見込まれる一方で、地震の想定される場所が陸地に近いことなどから予知が可能と判断され、気象庁が24時間体制で監視。地震の前に起きると考えられるゆっくりとした「前兆滑り」の検知がその目的だが、近年の観測技術の進歩や研究の進展で、地震の前兆とは異なる「滑り」の存在が明らかになった。
果たして、東海地震は本当に起きるのか。そのとき予知はできるのか-。
40年もの歳月を経て強まる疑問や不安を解き、東海地震に「直接結び付くような現象」が地下で進行しているかどうかを見極めるのは、気象庁長官の私的諮問機関「地震防災対策強化地域判定会」だ。平田教授ら6人の専門家が毎月1回、気象庁に集まり、同庁や国土地理院、研究機関が提供する観測データを読み込む。これとは別に、何らかの異変があれば緊急招集されるが、そうしたケースは極めてまれだ。