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時代の正体〈259〉日本会議を追う(1) 演出された改憲機運

社会 | 神奈川新聞 | 2016年2月16日(火) 10:13

1万1千人余の参加者で埋まった会場に流された安倍首相のビデオメッセージ =日本武道館
1万1千人余の参加者で埋まった会場に流された安倍首相のビデオメッセージ =日本武道館


 真打ちの登場で会場の高揚感は最高潮に膨れ上がった。

 2015年11月10日、日本武道館(東京都千代田区)で開催された「今こそ憲法改正を!1万人大会」。大型スクリーンに安倍晋三首相が映し出され、そのビデオメッセージを1万1千人余の参加者が聞き入った。

 「来年(2016年)は日本国憲法が公布70年の節目を迎える。わが国は戦後、現行憲法のもとで自由と民主主義を守り、人権を尊重し、法を尊ぶ国として一貫して世界平和と繁栄のために貢献してきた。現行憲法の基本原理を堅持することは揺るぎないことだ」

 憲法の平和主義を骨抜きにするという世論の批判を押し切り安全保障関連法を成立させてから2カ月。そう口火を切ると、やはり「現行憲法の基本原理の堅持」とは正反対の変わらぬ憲法改正への意欲を語った。

 「他方、70年の時の流れとともに国の内も外も世の中は大きく変わった。この間、憲法は一度も改正されていないが、21世紀にふさわしい憲法を追求する時期にきていると思う。また、現行憲法は日本が占領されていた時代に占領軍の影響下でその原案が作成されたことも事実だ。憲法は国の形、未来を語るものだ。その意味において、私たち自身の手で憲法をつくって、という精神こそが新しい時代を切り開いていくことにつながる」

 国会議員に義務付けられた憲法順守義務も、憲法は権力を縛るものという基本原則たる立憲主義はここでも否定され、しかし、会場の1万人はスクリーンに向け喝采を送るのだった。

成 果

 正面のひな壇には、右に「憲法改正一〇〇〇万賛同者を拡大し国民的大議論を巻き起こそう!」、左に「国会は国民の声を受け止め、すみやかに国会発議を実現し憲法改正の国民投票を!」の垂れ幕が掛かっていた。この「国民的議論」と「国会発議」に1万人大会の狙いが浮かび上がる。

 主催したのは「美しい日本の憲法をつくる国民の会」。国内最大級の保守系組織「日本会議」が主導し、14年10月1日に設立した団体だ。

 日本会議は会員約3万8千人を数え、47都道府県本部のほか約244の支部を持つ。その運動の特徴は全国に張り巡らせたネットワークを生かした「草の根」にある。「新しい歴史教科書をつくる会」編さんの教科書の採択など、署名を集め、地方議会に働き掛け、求める政策についての決議を促すという手法でさまざまな保守運動を展開してきた。


1万1千人余の参加者で埋まった会場=2015年11月10日、日本武道館
1万1千人余の参加者で埋まった会場=2015年11月10日、日本武道館


 「国民の会」はそのうち日本会議が最大の目標とする憲法改正に特化し、取り組みを担う。「美しい日本の憲法をつくる1千万人賛同者(ネットワーク)」の拡大▽「憲法改正の早期実現を求める」国会議員署名および地方議会決議の推進▽全都道府県に「県民の会」を設立し、憲法改正の世論喚起をする広範な啓発活動の推進-の3点を目標に掲げ、中でも1千万人を目指した署名活動に力を注ぐ。

 憲法改正をめぐっては政治主導で流れがつくられていることへの批判がつきまとう。主権者たる国民から要求があり、それに応える形で発議がなされるのが本来の姿だからだ。その国民からの要求を目に見える形で示すための1千万人署名。その機運を盛り立てていくための1万人大会。安倍首相を映し出したスクリーン横には15年10月末時点の1年間の活動成果が掲げられ、「445万2921名」という数字が示されていた。


舞台上であいさつする桜井よしこさん=日本武道館
舞台上であいさつする桜井よしこさん=日本武道館

機 運



 冒頭、主催者あいさつとして、国民の会の共同代表を務めるジャーナリストの桜井よしこさんが壇上に立った。関係団体の代表を務めるなど日本会議と関係が深く、主催イベントでの講演は定番と呼べるほど回数を重ね、保守系運動の精神的支柱とも呼べるその人が強調したのが好機到来、という機運だった。

 「私たちは憲法改正の時は熟しつつあると捉えている」「現在、戦後初めて、衆院参院両院で憲法改正の発議に必要な3分の2の議席の確保が可能な状況が生まれている」

 安全保障上の脅威が語られ、家族のあり方といった「日本らしい価値観」を憲法に書き込むべきだといった持論がいつも通り唱えられた一方、なぜだろう、改憲派の本丸であるはずの9条への言及はなかった。代わりに触れられたのが「緊急事態条項」だった。

 「大規模な自然災害に対しても、緊急事態条項さえない現行憲法では、国民の命を守り通すことは困難だ」

 戦争や大災害が起きたとき、首相の権限強化と国民の権利制限を規定するもので、自民党の憲法改正草案にも盛り込まれている緊急事態条項の新設。緊急事態だから、災害時だからといったように、理解が得られやすいと思われる条文から変える「お試し改憲」という手法とともに浮上してきた。そうして国民の改憲に対する心理的ハードルを下げさせた上で、国民の抵抗感が根強い9条改正に着手し、やがて自主憲法制定へと事を運ぼうという思惑がのぞく。

先 兵

 高まりが強調された機運、足かせにならないよう隠された9条。ビデオメッセージで登場した安倍首相もそうだった。

 「そしていま、憲法改正に向けた議論が始まっている。そこで大切なことは、その議論が国民的な議論として深められていくことだ。(中略)憲法改正は党派を超えて取り組むべき大きな課題だ。各党の皆さんにも協力を呼び掛け、実りある議論を十分に行い、国民的コンセンサスを得るに至るまで深めていきたい」

 署名の数をもって「国民的議論」を演出しようという戦略の舞台裏までがあからさまに語られた。

 「『美しい日本の憲法をつくる国民の会』の皆さんには、全国で憲法改正1千万賛同者の拡大運動を展開し、国民的議論を盛り上げてもらいたい。21世紀にふさわしい憲法を自らの手で作り上げる、その精神を日本全体に広めていくために、今後とも尽力いただきたい」

 会場には、日本会議の下支えで進められた地方議会での憲法改正の早期実現を求める意見書採択運動で、採択に至った31都道府県の議員をはじめ約200人もの地方議員も会していた。代表として登壇した、自民党神奈川県連で憲法改正プロジェクトチームのリーダーを務める松田良昭県議が首相のメッセージに呼応するように先走った声を張り上げた。


居並ぶ国会議員を前に「さあ、次は国会議員の皆さんが発議する番だ」と、声を張り上げる松田良昭県議=日本武道館
居並ぶ国会議員を前に「さあ、次は国会議員の皆さんが発議する番だ」と、声を張り上げる松田良昭県議=日本武道館


 「地方議会決議は間もなく47都道府県すべてで完成させる。さあ、次は国会議員の皆さんが発議する番だ」

 そして、先兵として地道に重ねてきた取り組みへの自負があるのだろう、肌で感じているらしい変化を強調するのだった。

 「街頭活動をしていても変わってきた。憲法改正なんてできないといわれてきたが、『ありがとう』『これを待っていたんだ』という意見が出てきた。流れは変わってきた」

                   ◇
 安倍首相が夏の参院選で争点化を明言するなど現実味を帯びる憲法改正。改憲派の中心にある日本会議の動向を

 
 

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