悩みを抱えながら、寂しく食事をすることのつらさを知っている。これまで自分が支えられてきたように、今度は次の世代の子どもたちに寄り添いたい-。10~20代の若者たちの、そんな思いが込められた「こども食堂」が川崎市川崎区桜本で始まる。「一緒に食卓を囲み、喜びも悲しみも共有できる居場所をつくりたい」。プレオープンした食堂をのぞくと、ほかとはひと味違ったこども食堂の光景が広がっていた。
1組目は、小学4年生の兄と2年生の妹のきょうだいだった。2人で横並びに座り、カレーを頬張る。
向かいの椅子に、エプロンを着けたいつもの“お兄ちゃん”が腰掛けた。自然と笑みがこぼれる。「ヒロの料理がどれだけおいしいか、確かめにきたよ」。照れ隠しで言う妹に、兄も続ける。「僕もカレーが食べたかった。あと、ヒロに会いに来た」
2人のことはよく知っている。明るく振る舞っていても、家庭に問題を抱えていた時期があった。「カレーどうだった」「嫌いな食べ物はあるの」。テーブルには代わる代わる人が集まり、2人に話し掛ける。たわいない会話を楽しみながら、調理師専門学校1年生のヒロ(18)は思う。「こうして気軽に来てくれたら、何かあったときにも気付けるかもしれない。食べるときは素が出たりするから」
18日、川崎区桜本の「ほっとカフェ」にこども食堂がプレオープンした。社会福祉法人青丘社が運営し、高校生から20代前半の若者たちもスタッフとして参加する。近くにある市ふれあい館などで、普段から小中学生に勉強を教えたり、一緒に遊んだりしているだけに、顔見知りの子どもは多い。
近くに住む小学3年生の女児(9)もその一人だ。この日は母(36)と妹(1)の親子3人で来店した。「おいしい」と笑う娘の姿に、仕事や育児に追われる母もほっとした表情を浮かべる。「全国のあちこちで子ども食堂がオープンしていて、近くにもできないかなと思っていた。ごはんを作るのが大変なときに来たい」。なじみの顔に次々と声を掛けられながら、娘も「ここなら一人でも来られる」と口にする。
隣のテーブルには、小さな孫3人とビビンバを食べる祖母(49)の姿があった。「母親が働きながら食事を用意するのは大変。私が食べさせることもあるが、コンビニで済ます日もあるようだ。今後は子どもだけで来ることもあるかもしれないが、こういう場所があれば安心」
サポートする側
若手スタッフのリーダーとして手伝うヒロにも、将来に悩んだ時期があった。
中学生のころ、両親が病気がちになり、生活が苦しくなった。食事を我慢することも多く、「どこか物足りなさを感じていた」。夢は調理師。でも家計を考えると、専門学校への進学がためらわれた。
中学時代から学習支援を受け、高校生になってサポートする側として通っていた市ふれあい館で、少し年上の大人たちが相談に乗ってくれた。方法を探し、アルバイトで働きながら進学することができた。「自分がつらい時に支えてもらったように、子どもたちの心の隙間を埋めてあげたい。国の制度が悪いのだから仕方ない、どうでもいいやと思ってしまうのが一番いけないこと」。食べることを通じ、一人じゃないよと伝えたい。年齢が近いからこそ、悩みを打ち明けやすいし、気持ちもきっと理解してあげられる。