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新たな共生へ 外国人受け入れ規制緩和(1)
フィリピン、家事人材の養成に力 日本の規制緩和に応え

社会 | 神奈川新聞 | 2016年1月15日(金) 13:08

 政府が成長戦略の一環として、外国からの人材の受け入れに門戸を広げる。神奈川では女性の活躍や福祉の人材充実を促すため、家事や介護の分野で大きな規制緩和が計画されている。「多文化共生」を掲げてきた神奈川だが、少子高齢化の進展で、外国人との新しい向き合い方を求められるかもしれない。準備は整っているか。課題を考える。

 「赤ちゃんの体を拭くときは、優しく、一方向に。OK?」

 「イエス、マム!」


フィリピン・マニラ首都圏の職業訓練学校で、海外家事労働者の育成コースの授業を受ける研修生。新生児の沐浴法についての講義に耳を傾ける =2015年11月フィリピン・マニラ首都圏の職業訓練学校で、海外家事労働者の育成コースの授業を受ける研修生。新生児の沐浴法についての講義に耳を傾ける=2015年11月
フィリピン・マニラ首都圏の職業訓練学校で、海外家事労働者の育成コースの授業を受ける研修生。新生児の沐浴法についての講義に耳を傾ける=2015年11月

 フィリピン・マニラ首都圏の職業訓練学校で開かれる家事労働者育成コースの授業の一こまだ。人形を使って新生児の沐浴(もくよく)の講義が進む。講師の説明に、海外への出稼ぎを目指す研修生が必ず唱和する。「国籍や文化の違う雇用者とは、常にコミュニケーションを心掛けることが重要」(講師)と肝に銘じてもらうためだ。

 調理や清掃の技術、子どもとの遊び方からプロの心構えまで、授業は濃密。「仕事に対する態度を学べている」。研修生のレア・リン・メンディアさん(23)は、研修が終われば家政婦としてサウジアラビアに向かう。

 スーパーマーケットなどで働いていたが、好待遇とはいえなかった。実家の母を経済的に助けたいと思う。「まだ学校に通っている弟もいますし」

連携

 こうした学校は、フィリピン政府の技術教育技能教育庁(TESDA)の認定を受けている。フィリピンの国家戦略でもある海外出稼ぎ人材の育成を、官民が連携して担っている形だ。

 家事労働者の就労先は香港、中東諸国やシンガポールなどが主流。そこに「将来の出稼ぎ先」として日本が存在感を高めている。アベノミクスの一環として、地域限定で規制を緩和する国家戦略特区の事業に、海外から「家事支援人材」を受け入れる構想が盛り込まれた。2015年11月にマニラで開かれた日比首脳会談でも安倍晋三首相とアキノ大統領が、早期の事業開始に向けた体制整備に努めることで一致している。

 「経済大国で、母国にも近い」-。日本発のニュースに接した職業訓練学校の研修生たちの間にも、期待が広がっている。ピーター・リャン主席顧問は「香港のように、日本でも高給が期待できるだろう。人気も上がるはずだ」。

人材


給仕の作法を学ぶ海外家事労働の研修生=2015年11月、フィリピン・マニラ首都圏
給仕の作法を学ぶ海外家事労働の研修生=2015年11月、フィリピン・マニラ首都圏

 フィリピンの国内総生産(GDP)成長率は近年、6~7%程度と高い水準を保つ。それでも国内産業の成熟が労働人口の増加に追いつかず、国内の雇用状況の改善は進んでいない。賃金上昇率も、インドネシアやベトナムに比べて低い。

 フィリピン政府の集計(13年末)では、人口の1割に当たる約1023万人(永住者含む)が海外に暮らす。出稼ぎの送金でGDPの1割を生み出す彼らは「バゴン・バヤニ」、フィリピン語で「現代の英雄」とも称賛されてきた。

 海外に出ていく労働者は男性では技術者や船員、女性では家事・介護職や英語教師などが多い。

 なかでも家事労働者には、大卒水準の高等教育を受けた女性も珍しくなかった。とりわけ目立ったのが教職経験者。英語の能力が高い上、調理や掃除に加えて子どもの世話も含めた技能が評価されたからだ。

 01~10年のアロヨ政権下では、「スーパーメード」の育成構想が打ち出されている。調理や掃除などの技能にとどまらず、非常時に雇い主の子どもの安全も守れるなど緊急事態への対応力も備えてもらう狙いだった。だが、このブランドには「NGOなどの評判が悪かった」(政府当局者)経緯があり、今では幅広い家事をこなせる能力を備えた人材を育てるのが潮流となっている。

労働環境の質維持を 神奈川、特区で解禁

 「家事を担っている人の負担が軽減され、活躍の幅が広がる」。2015年12月15日、首相官邸で開かれた国家戦略特区諮問会議。議長を務める安倍晋三首相は、神奈川で解禁される外国人の家事代行サービスに、女性の離職対策効果への期待感を強調してみせた。

 14年10月に示された「東京圏」の区域計画素案に、「今後、追加に向け検討すべき規制改革事項」として盛り込まれた構想。現行法では外国人の家事労働者は外交官などが雇う場合を除いて入国・在留が認められていない。神奈川ではこの規制を緩め、国や自治体でつくる第三者管理協議会の管理のもとに就労を認める構想だ。県は3月にも事業の開始を見込む。

 県が構想を提案した背景には、働く女性の年代別割合が結婚・育児の年齢層で低くなる「M字カーブ」の落ち込みが「神奈川はどこよりも深い」(黒岩祐治知事)事情がある。12年の全国知事会による提言に盛り込まれた調査では、M字の谷と頂点の差が神奈川では18・0ポイントと、全国都道府県別で最大だ。

 安倍政権のまとめた成長戦略では外国人材の活用を「移民政策と誤解されないように配慮する」と強調。今回の規制緩和でも、家事労働者の滞在期間は最長3年間とした。それでも、「一定の人数は配偶者を見つけるなどして定着することになるのでは」(外国人支援団体)との見方が消えない。

 一方で、海外では出稼ぎ家政婦たちが雇用主によって劣悪な環境に置かれる実態も報じられてきた。サウジアラビアでは15年10月、インド人家政婦が逃げようとした際、雇用主に手を切断される事件が発生。同国では10年にもインドネシア人家政婦がアイロンを押し当てられ、14年にはフィリピン人家政婦が熱湯をかけられている。

 国家戦略特区担当を兼務する石破茂地方創生担当相は「外国人を不当な条件で酷使することのないよう万全の配慮を払う」。未経験の分野だけに、さまざまな課題に対応しながらの試行となりそうだ。

 

国家戦略特区 地域を限定して各種の規制緩和を集中的に実施する制度。安倍政権が2013年6月の成長戦略に盛り込んだ。県内全域は東京都や千葉県の千葉市、成田市とともに「東京圏」の特区を構成する。神奈川県内では15年12月、外国人による家事代行サービスの解禁が決まった。ほかにもまちづくりの容積率や保険外併用療養、病床規制などの緩和が認められている。

 
 

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