
人は変わる。考え方もまた、しかり。慶応大名誉教授の小林節さん(66)は変化をためらわない。変節と呼ばれようと、隠そうとはしない。むしろ誇る姿がいま、聴衆を引きつける。
「かつて私は1億人の命を守るためには1万人が戦争で死んだとしても、誤差の範囲だと平気で考えていた。自分が戦争に行くなど考えず、人の命を統計学の数字のようにして捉えていた。だが、34歳のとき、娘が生まれ、妻がわが子を抱きしめているのを見て、この命も一つの命だと実感するようになった」
自民党のブレーンとして憲法9条の改正や集団的自衛権の行使容認を説いていた若き憲法学者、その胸に芽生えた確かな変化。
「それからは、戦争映画で兵士が死ぬシーンを見るだけで、ぞっとするようになった。戦場で死ぬ兵士も家族にとってはかけがえのないすべて。子どもを持って命の尊さを知り、何があっても戦争は避けないといけないと思うようになった」
認 識
そもそもの持論は「護憲的改憲論」。侵略戦争を二度と行わないと明記した上で自衛隊を軍隊に位置付け、自衛のための戦争と国際貢献を行えるようにする。そうすることで9条の規範性を高めるのが狙いだった。