
自民党が改憲の最優先に掲げる「緊急事態条項」。パリ同時多発テロを受け非常事態を宣言したフランスの例に倣い「日本でも憲法に規定するべきだ」との声が上がる。一方で、法律家からは「立憲主義の否定につながる」という意見も聞かれる。その危険性は歴史が証明している。
テロ発生から5日後の11月19日。大手検索サイト「ヤフー」のトップニュースに、産経新聞の記事が並んだ。
〈日本は「非常事態宣言」ができるか 憲法への緊急事態条項創設が課題〉
フランスのオランド大統領がテロ発生直後、非常事態法に基づき非常事態を宣言したことを引き合いに出し「(日本の)憲法には同様の規定は存在せず、『テロとの戦い』の欠陥となっている」と緊急事態条項創設の必要性を説いた。
高揚
フランス法を専門とする聖学院大学教授の石川裕一郎さん(48)は「非常事態宣言は大統領が主宰の閣議を経て決定します。この段階では、立法府である国会の承認は必要ありません。迅速に対応できるという見方がある一方、拙速気味になるという懸念もあります」と話す。
宣言以降、12日間、裁判所の捜査令状なしでの家宅捜索、集会開催や夜間外出の禁止、報道規制などが可能となる。「歯止めとされるのは大きく分けて二つ。12日を超える非常事態の延長の際は、国会で延長する法律を作らなければなりません。今回も国会で法律が作られ、延長されました。一応、立法権のチェックが入るわけです」
「もう一つは司法権。不当な身柄拘束や家宅捜索などの人権侵害に対し、行政事件を専門とする裁判所や憲法裁判所に訴えることができます。しかし、事後的対応で時間がかかる。裁判所が被害に遭った市民側に立つ判断をするかどうかも分かりません」
非常事態法がフランス全土に適用されるのは、3回目の発令があった1961年以来、54年ぶり。当時はアルジェリア戦争の争乱下で発令された。
「後に『非常事態』を発令する状態にあったのか、適用しなくても収拾は可能だったのではないかという議論は常にあります。平時とは異なり、有事において人間は冷静な判断をすることが難しくなる。政治の道具に利用されかねない」
人権意識が強いフランスにおいても同時多発テロ以降、ナショナリズムの高揚が見られるという。「政府の判断に疑問を持つこと自体に『水を差すな』といった空気があります。そして非常事態が宣言されてしまえば、チェック機能を果たすはずの立法府である国会も事実上、あまり機能しなくなっている。それもまた、権力者にとっては都合のいい話なのです」
乱 用
翻って、日本はどうか。11月11日、参院予算委員会。質問者である自民党の山谷えり子・元国家公安委員長は切り出した。