米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先、名護市辺野古の埋め立て承認を翁長雄志知事が取り消したのは違法として、国が撤回を求めた代執行訴訟の第1回口頭弁論が2日、福岡高裁那覇支部(多見谷寿郎裁判長)で開かれた。翁長氏は意見陳述し、沖縄が過重な基地負担と犠牲を強いられた歴史を強調した。国は承認の適法性を主張し、迅速な審理終結を求め、県は訴えを退けるよう要求。国と県の異例の法廷闘争が始まった。
翁長氏は、住民を巻き込んだ沖縄戦や、米軍に土地を強制接収され、戦後70年続く基地負担の実態を説明した。「政府は辺野古移設反対の民意にもかかわらず移設を強行している。米軍施政権下と何ら変わりない」と批判し「(争点は)承認取り消しの是非だけではない。日本に地方自治や民主主義はあるのか。沖縄にのみ負担を強いる安保体制は正常か。国民に問いたい」と訴えかけた。
国側は主張の要旨を読み上げ、まず「基地のありようにはさまざまな意見があるが、(法廷は)議論の場ではない」と指摘。「行政処分の安定性は保護する必要があり、例外的な場合しか取り消せない」と強調した。移設が実現しなければ普天間飛行場の危険性が除去されず、日米関係が崩壊しかねないなどの大きな不利益が生じるため、取り消しは違法と訴えた。
県が主張する前知事による埋め立て承認の法的瑕疵(かし)にも反論。「県は辺野古に移設する根拠が乏しいと言うが、そもそも国家存亡にかかわることを知事が判断できるはずがない。環境保全も十分配慮した」と説明した。
一方で県側は(1)辺野古移設強行は自治権の侵害で違憲(2)埋め立て承認は環境への配慮が不十分で瑕疵がある(3)代執行は他に手段がない場合の措置で、国は一方で取り消し処分の効力を停止しているため、代執行手続きを取れない-と訴えた。
次回弁論は来年1月8日。裁判長は、県側が申請した稲嶺進名護市長ら8人の証人尋問などの採否を、同月29日の第3回弁論で明らかにする。
◆損害の比較が必要
北村和生・立命館大法科大学院教授(行政法)の話 米軍普天間飛行場の移設先となった名護市辺野古沿岸部の埋め立て承認のように、相手方(今回は沖縄防衛局)に利益を与える行政処分の場合、その取り消しは制限すべきだとする国の主張は誤りではない。行政処分に瑕疵(かし)があっても、取り消す必要性があるか行政機関は慎重に判断せねばならないとした最高裁判例もある。取り消した場合、取り消さない場合それぞれの損害を慎重に比較する必要がある。