「種も仕掛けもあります…」。川崎市中原区に住むマジック・アーティスト「ミスター・クロッキー」こと黒崎正博さん(74)が地元の高齢者福祉施設などを訪問し、人気となっている。手品の人気商品の監修も行う黒崎さんは「マジック(手品)は認知症の防止にもつながるし、交流にもつながる」と語り、今後も施設訪問を積極的に続けていくという。
中原区宮内のデイサービス施設「ケアーハウスこだま桜組」。高齢者や職員約30人を前に、鼻下にチョビひげを描きサングラスを掛けた黒崎さんがトランプやスカーフ、リングなどを操る。口でくわえたハーモニカで演奏しながら、スカーフがステッキに早変わりしたり、トランプの模様が変わったり。時折、失敗してみせて種明かしをし、軽妙な話術でお年寄りの心をぐっとつかむ。「みんな楽しそうに笑っていて、健康にもよさそう」と同施設センター長の上谷ふさえさんは相好を崩す。
黒崎さんは「手品は見ていても脳を活性化させるので認知症予防になる。手品の展開や話のスピードは、お年寄りの場合は遅くして反応できるようにするなど変えている」と話す。単にテクニックを見せるのではなく楽しんでもらえることを大切にしているという。
東洋大で学生時代の1961年にサークル「マジシャンズソサエティ」を創設し、OBらは千人を超えた。社会人になってもマジシャンの活動を続け、マジック界の最高峰「米国アカデミー・オブ・マジック」のパーティーに日本人初のゲストとして出演。その後、手品グッズの企画販売のため独立し、テレビの出演や著作も多かった。
しかし、バブルの崩壊でいったんは事業に行き詰まった。2001年に100円ショップで発売された手品シリーズ62種の販売総数は間もなく通算1300万個を突破する見込みでギネスブックへの申請も考えているという。
「地域へのお返し」としてステージの合間などに高齢者施設や幼稚園などの訪問を行っている。「マジックは、BMW(ぼけない、もてる、若返る)の効果があり、交流も深まる。反応を見て、グッズ作りの参考にもなる」と黒崎さん。地元の新聞販売店の飯塚宏所長も、施設とのパイプ役をこなし、「手品で家族との会話にもつながる。少しでも多くの方に楽しんでもらえたら」。マジックの輪が広がっている。