警備の警官の列に囲まれた一団が藤崎4丁目の十字路を左に折れていく。コースは当日になって変更され、在日コリアンの集住地区、川崎市川崎区桜本でのヘイトスピーチは回避された。
街の入り口で身構えていた崔(チェ)江以子(カンイジャ)(42)は交差点へ走った。こちらに来ないことを確かめ、もう引き返してもよかったが、気づくとデモの列を追い横断歩道を突っ切っていた。
道路の幅が片側1車線に減り、距離が近づく。参加者14人に対し、合流した抗議のカウンターは約300人。「半島、帰れ」の連呼を怒声がかき消す。「差別主義者は帰れ」「二度と川崎に来るな」
沿道には住民や通行人に状況を説明し、道理を説く人も現れた。「大変物々しい状態になりますが、ヘイトスピーチに抗議をする人々へのご理解をいただき、この街で差別をなくそう、ヘイトを許さないという声を一緒に上げていきましょう」
いつもは拡声器を手に高揚した顔の主催者、津崎尚道も諦めたようにうつろな目になっている。50代半ばのはずだが、雨でぬれそぼった白髪が頭に張りつき、ひどく老けてみえた。
崔が振り向くと、中学生になる長男がいつの間にか泣いていた。